▼ 亜久津と屋上でお昼ご飯
「あいうえオリオン、かきくけココア、さしすせソルト!」
ぶんぶんと片手に握ったビニール袋を振り回しながら、適当に思いついた単語をリズムよくつらつらと出していく。今日はいつも以上に気分が良い。最高にハイッてやつだ!
私が学校で二番目に大好きなお昼休みの時間がやってきたのだ。楽しくないわけがない。
「たちつてトリコ、なにぬね呑んべぇ!」
ビニール袋を振り回しながらやってきた場所は普段は立入禁止になっている屋上。鍵は先生から正式に貰っている。公式!オフィシャルというやつだな!あれ、違うか。
ビニール袋からおにぎりを取り出して掲げる。今日の具は梅とおかかだ!両方とも三つずつある。
「はひふへホタテ、まみむめモンブラン!」
「うるせぇ」
のしっと頭に何かが乗せられて、サッとそれに手をやるとビニール袋に包まれたプリンだった。なんと!しかもこれは焼きプリンじゃないか!
顔を上げれば私の手から取っていったおかかのおにぎりを頬張ろうとしている亜久津先輩の姿がある。
「あざっす!」
「黙って食え」
「うぃっす!」
わしゃっと頭を一撫でされたので大人しく梅のおにぎりを頬張る。プリンは食後のデザートだ!
先生から正式に屋上の鍵を受け取ることが出来たのは、亜久津先輩のおかげである。先生が言うには「お前がいれば亜久津は比較的大人しいから持ってろ」という事で貰ったのだ。
私としては嬉しい限りである!亜久津先輩とほぼ毎日屋上でご飯を食べることが出来るのだから役得以外の何ものでもない!
ほぼという所はアレだ。亜久津先輩はちょっとやんちゃしいだから、喧嘩して怪我して保健室でご飯を共にしたりという事がある。別にそれは構わないんだけど、やっぱり屋上で食べるご飯が一番美味しいんだ!
「なまえ、」
「はい!」
「口の端ついてんぞ」
「なんと、お恥ずかしい」
拭えば確かにご飯粒が付いていて、サッと口の中へと放り込む。呆れたような、でもどことなく優しい感じの目をした亜久津先輩を、やっぱり私は怖いだなんて思わない。私が馬鹿だから気付かないだけなのかもしれないけど。
「亜久津先輩、今日はお母さんが卵焼きを作ってくれたんです」
「……なまえは作ったりしねぇのか」
「む、う…。亜久津先輩が食べてくれるならちょっと頑張ってみようと思います」
「食えるもん作れよ」
「頑張ります!」
箱に入れられた綺麗な黄色いふっくらとしたお母さんお手製の卵焼きを見せれば、亜久津先輩は意地悪なことを言う。頑張るとは言ったものの、料理は死ぬほど苦手だ。簡単だという目玉焼きも焦がしてしまうから、調理実習の時はお湯が沸騰するのを見張る役しかやったことがない。それをいきなり食えるものとは…。黒い塊ができる未来しか思い浮かばない。
卵焼きを口に放り込みながら遠い目をしていれば、またわしゃっと頭を撫でられた。
「……へへっ!頑張りますぜ亜久津先輩!」
「期待はしないでおいてやるよ」
「ひど、いや、これはまあ気が楽になる…のかな?」
変に期待されるよりはマシかとおにぎりを咀嚼。美味しい。
いいんだ。絶対に美味しい卵焼きを作って亜久津先輩に食べてもらうんだ。破壊的な料理の腕前の私だけど、作るが基本のはずなのに食材を壊していく料理をする私だけど、きっと二、三ヶ月したら上達してるに違いない。
「ちなみに焦げたりしたものは食べてもらえるんですかね?」
「ぶっ飛ばすぞ」
「よし、先ずは焦がさない事を目標にしよう!」
私が決意を新たにしている横で小さく笑った亜久津先輩がやっぱり大好きだ。そんな先輩と屋上で食べるご飯が、私にとって一番大好きな時間なのである。
剋O万hit記念