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▼ 黒尾に避けられ赤葦に相談

黒尾に脅迫まがいの壁ドンを行われ、キャパシティーオーバーを引き起こしてぶっ倒れた後、目を開けば保健室のふかふかのベッドで横になっていた。先生に聞けば黒尾が行き倒れている私を見つけたんだと言って引き渡してくれたらしい。
この平和ボケした日本で行き倒れとは、随分と苦しい理由だぞ黒尾。素直に倒れたから運んだだけですと言ってくれればいいじゃないか。全くもう、イケメンが照れ屋だなんて私からしたら只のポイントアップなだけだぞ!私は何事も前向きに考える性格なのだ。
ケータイを取り出して赤葦くんのトークを開き、返信してからその日は体調が悪いと偽って帰った。私は演技派でもあるのだ!
その日を堺に、学校で黒尾の姿を見なくなった。いや前もこんな感じだったけど、黒尾が基本的に逃げてるような状態だったけど、だけれど、しかし、ここまで姿を見せないことは無かったのだ。


「イケメンが足りない……っ!!!」

「また言ってんの?」


友人の呆れたような声が聞こえたけどそんな事は今どうでもいいのだ。探しに行けばこの音駒高校にはイケメンはまあまあいる、サッカー部の有吉や、野球部の鼠川などなど。だけれど違う。私が見たいのはただ一人、断トツのイケメン力を誇るバレー部主将の黒尾鉄朗が見たいのだ。
ほんとにちょっと姿を見せてくれるだけで構わないんだけど。こうなったら申し訳ないけど部活動中の黒尾を見て癒されようかなと、野次馬根性丸出しの考えをたたき出す。…流石に本気で部活に取り組んでる所は駄目だな。うん、入部するわけでもないのに。イケメンの邪魔はしないのがポリシーだ。


「黒尾ならなまえが来るまで教室にいたんだけどねぇ」

「…あれ、これ私避けられてたりする?」

「さぁ?」


肩を竦めて口角を上げる友人はひどくカッコよく見えた。やっべぇ、新しい扉を開きそうだったぜ。イケメン不足で女子までイケメンに見えるとか病気じゃないか。
避けられてるというのはまあ自意識過剰な気もするけど、何かしたかなとこの前の記憶を引っ張り出す。五秒。別に悪いことなんてしてない。むしろ向こうの方が悪そうだった。舌打ちしてたし、まあ今思えばカッコよかったけどね。その時は恐怖でしかなかったけども。
こんな時は、我等がイケメン赤葦くんに相談である。


「赫赫云々うんぬんかんぬん、とまあこんな所です。私に悪いところあるかな?」

「それは男の方が悪いです。なまえさんは今すぐその男の記憶を消した方がいいですね」

「そんなに!?」


相談があるとトークアプリに打ち込めば、すぐ様返信が来た。『部活が終わり次第行きますので待っていてください』と赤丸が指された地図も送られてきた。行けない場所ではなかったので、大人しく指示された場所であるファストフード店でシェイクを飲みながら待っていた。
やって来たイケメンである赤葦くんに癒されながら、内容を事細かに述べれば上記の通りに返されたのである。辛辣なところもカッコイイよ!


「え、え、でも私に悪いところがあったのかもしれないしさ。全部アイツが悪いって訳じゃないと思うんだけどなぁって」

「なまえさんは良くも悪くも優しいから相手の男が調子に乗るんです。なので今すぐに忘れるべきだと思います」

「赤葦くんのその言い切る姿、カッコイイよ」

「ありがとうございます。なまえさんは可愛いですよ」


ガタンッ。テーブルに額を思い切りぶつけた音である。そこそこ痛い。
まさかイケメンにそんなことを言われるとは…。サービス精神が旺盛だなぁ赤葦くん、ニヤけすぎて顔が上げられないじゃないか。イケメンとこうして普通に話しできること自体奇跡に近いのに、ほんとやべぇ、これだからイケメンって奴は…っ!ありがとうございます。


「なまえさん今すぐこっちに来てください。俺の隣にどうぞ」

「え、えっ、なに?何のサービス?」

「いいから、早く」

「アッ、ハイ」


ぐいぐいテーブル越しに腕を引かれて慌てて席を移動する。赤葦くんの隣に座ればふわりと赤葦くんのものだろう制汗剤の匂いがした。気を遣える男の人って素敵だと思うよ赤葦くん!この前から赤葦くんの好感度は鰻登りだよ!
なんて変態じみた私の思考を断ち切るように、私が座っていた場所へと座る人物に思わず目を見開いた。


「あ、え?黒尾?何でここに?」

「うるせぇ」

「ごめんなさい。怒ってる顔もカッコイイです」


久しぶりのイケメン黒尾は相変わらずのイケメンでちょっと写真撮りたくなったけど、何か怒ってるようなので自重した。


「久しぶりですね、黒尾さん。狙っていた魚に逃げられる気分はどうですか?」

「久しぶりだな、赤葦。逃げてねぇし、逃がしもしねぇよ。横から掻っ攫ってこうとしてる邪魔なヤツがいて面倒なダケ」

「掻っ攫うとは失礼な物言いですね。誰のものでもないんですから、俺が手をつけても問題ないでしょう」

「問題大アリだから俺がここにいんの。分かる?」


アウェー感。疎外感。とてつもない場違い感が私を襲う。一体何の話してるんだこの二人は。魚、魚の話してんの?なんで急に?急に釣りに目覚めたの?いや、二人ともイケメンだからどんな話してても私目線ではその話すら神々しく見えるからいいんだけどね?というかイケメンがここに二人も集結してるだなんて、ホントもう空気読めない女でいいから写真撮りたい。と、黒尾の目がこちらに向いて慌てて背筋を正す。邪な事考えててごめんなさい。


「ちょっと目ぇ離せばコレだ。なまえの優先順位はコロッと変わるんだから大変だわ」

「あふっ。反論できないですごめんなさい」

「その癖まだ探しにくるから…ホント、変に期待させんな馬鹿」

「え、だって、休んでるわけじゃないのに黒尾いないから、寂しいし」

「っ、そーいう事を言ってんの!」

「ごめんなさい!」


何で怒られたの!?咄嗟に謝ったけど何で怒られたの!?ごめん私全然わからずに謝っちゃったよ!顔真っ赤にして怒ることないじゃないっすか黒尾さん!そんな顔もサイッコーにイケメンだよ!私のイケメン魂はどうあってもブレないらしい。


「やめてください黒尾さん。なまえさんが怯えてるじゃないですか」

「これに関して俺が謝るところは何もねぇケド」

「分かった!つまり、黒尾に迷惑かけなきゃいいんだよね?」

「何も分かってねぇじゃねぇか…」


がくりと頭を下に落とした黒尾に私は首を傾げた。難しい。馬鹿にもわかるように説明してくれやがれください。それから何でちょっと赤葦くんは満足げなの。


「まあいいじゃないですか、なまえさんのイケメンランキング二番目さん」

「お前ほんと次の練習試合覚悟してろよ」


とりあえず私が今日分かったことは黒尾をいつも通り追い回していいことと、二人の仲が思っていたより最悪だったということである。


剋O万hit記念



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