▼ 擬人化聖剣くんが行く!
私の姿をまじまじと眺めるマスターである彼女は、足の先から頭の天辺をその青い瞳で見つめる。むず痒い気持ちになるという聖剣の姿では有り得ない感情にこてりと首を傾けた。剣が人の姿を持って歩き回るだなんて、一体どこの刀剣ほにゃららなんだか。
「…流石、美しい造形ですね」
「でっしょー!俺もこの姿、結構気に入ってるんですー!顔もマスターに負けないくらいの美形ってやつですよー!」
「性格はともかくとして、ええ、姿は本当に美しいと思います」
「あれ、今貶された?褒められた?」
思わずキャラが崩れてしまうレベルで嬉しくなってしまった。マスターからお褒めの言葉を貰うなんてそうそう無いことだから余計に。取り繕うように咳払いを一つ。何事もなかったかのように「ありがとうございます」と笑みを浮かべれば、マスターも小さく笑う。私のマスターってば本当に綺麗で可愛い子だなぁ。
「それにしてもマスター、私をこの姿にして何かしたかったのですか?俺眠たい」
「本音が出ていますよ。たまには私の剣と共にお茶でもと思いまして。今日はクエストの編成も入っていませんから」
「私がいてお邪魔じゃないのなら」
「?、私とあなただけで、ですよ」
当然のように「二人で」と強調するようにもう一度言ったマスターにぽかりと口を開ける。驚いた。普段ならマスターがお茶を飲む相手なんてメドゥーサか円卓の騎士等、その他はお茶菓子の抑制にとエミヤがつく程度。思わずその白い額に触れる。よかった熱は無い。払われる前にパッと手を離して、そのまま何もしないと両手を上げる。
「どどどど、どうしたのマスター?俺なんかした?ちゃんとマスターの言うこと聞いてたつもりなんだけど、ヘマしちゃった?」
「はい?あ、いえ、説教とかではなく」
「あ、もしかしてやっぱりこの姿お気に召さないとか?いやぁでもこればっかりはマスターのマスターも気に入っちゃってるからさ。あんまりコロコロ変えると皆ビックリしちゃうし、なにより俺この姿結構気に入ってるしさぁそこはマスターに譲歩してもらって。いやマジのマジに死ぬほど無理ってんなら流石に俺もこの姿のままではいられないけど。あ、それともアレっすかね?口調?んんんん、でも前からずっとこういう喋り方だったから気を付ければ大丈夫なんだけど、ずぅっと堅苦しい喋り方ってのはこっちが気疲れするっていうか適度に休めないとキメるとこキッチリキメられなくなるから、ほら宝具とかああ言うのが不発だと俺もマスターも恥をかくことになるしやっぱりマスターが譲歩してく」
「話を聞きなさい」
「あぁっ!?そんな手荒な!?」
ゴツンッと思い切り自身の刀身を地に叩きつけられて悲鳴が出た。くっ、女の身ではないから物凄く気持ち悪い声出た。めそめそと泣き真似をしながらマスターを見れば一つ溜息を零して「本体」を膝の上に置く。ううん、大事にされてるのは嬉しいけど今みたいなヒヤッとする行動する時があるからなぁ。折れたらどうするんだろ。
ところ変わってマスターに宛てがわれた部屋の中、優雅にお茶を飲むマスターに倣って同じ行動をとる。魔力で形作られている俺に空腹感なんて全くないし、供給源であるマスターから魔力が流れているからこんな行動はただの人間の真似事なのだけれど。だって俺には痛覚はあっても味覚がない。
薄い赤で色付いたカップの中身は紅茶という物らしい。少し熱いかなぁと思う程度なので、飲めないことは無かった。
「マスターに聞きたいことが」
「なんですか?」
「このカルデアに私と『同じ』存在はあるんですか?」
「…どうでしょう、私は見た事がないですが。何か感知でもしましたか?」
「エミヤ様だったり、ブリュンヒルデ様だったり、他にもいらっしゃいますが、傍を通り過ぎる感じではそれとなく」
「所有者が意識しない限り、貴方のような存在は目視できませんからね。私も偶然なまえを顕現出来たようなものですから」
目を伏せて考え込むマスターの姿ってば本当に絵になる。さすが俺のマスター。美麗。思わずニコニコその様子を眺めてしまう。正直お茶よりもマスターを観察している方が楽しかったりする。俺が振った話題にも関わらず俺が話を脱線している事なんてザラにあるので気にしないで欲しい。
「うーん、まあ顕現できてないんなら、まだ暫くはマスターのマスターにはこの姿も隠しといた方がいいですかねぇ。ちらっと感知されてる気がするけど。まあ武器が人の姿をとるなんて一体どこの刀剣な乱舞なんだって話だし、確かに俺ってばマスターに似てとぉっても美形な訳ですけど、まあ俺自身が戦う訳じゃないですしね。どっちかって言うとソウルなイーター的な感じの方が合ってる気がする。職人のマスターって何それ俺得では?あ、これあの黒髭さんとかに話したらサムズアップとかしてくれそ」
「なまえ」
「何なりと」
「今は私とのお茶を楽しんでおきなさい」
「…はぁい」
ふわりと微笑んだマスターに俺はもう考えるのをやめた。大人しくこの二人だけのお茶会を堪能する事にする。オチなんてないったらないのだ!
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