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▼ 狡知と魔性菩薩の話合い

あちらの世界よりも何故か執拗に引っ付いてくるベリアルに内心うんざりしながらも、あちこちから感じる嫌な視線避けにしようと放っておいたのが原因だったのか。ダ・ヴィンチちゃん作の魔力封じの礼装を着け、珍しくも誰もいない廊下を歩いている時にそれは起こった。ぐにゃりと視界が歪み唐突に起こったそれに対処する術もなく、咄嗟に出たのはベリアルと言う声だけ。既視感を覚えながらも呆気なく意識は闇に叩き落とされた。
次に目を開けると、コロコロと鈴のような音で笑う尼の格好をした女性と、私を片手に抱いて胡散臭い笑みを浮かべるベリアルが対峙している姿が写り込む。全く状況が理解できない。取り敢えず体を起こそうと身動ぎして、気付いたベリアルが私に視線を落として更に口角を上げた。


「おはよう、お姫様。ベッドの上で優しく起こしてやりたかったんだが、邪魔をする輩がいてね」

「あらあらまあまあ。私がお話したかったのはなまえさんだけ。それに割り込んできたのは貴方じゃありませんか?」

「天司の物に勝手に手を出すなんて何様のつもりだ?見世物じゃないんだ、邪魔はしないでもらえるかい」

「女通し、気兼ねなくお話がしたいだけ。と言っても貴方は聞いてくれませんね?ああ、どうでしょうなまえさん。たまにはそこの無粋な方を除いてお話でも」


なんで起きた瞬間からこんなにギスギスした現場に立ち会わなくてはいけないんだろうか。痛む頭を抑えつつ、未だ体を支えてくれているベリアルを一瞥すれば、顔は笑っているのに目は笑っていないという器用な事をしていた。こんなに分かりやすいベリアルも珍しいと思いつつ、それだけ目の前で嫋やかに笑う女性が危険なのだろうと察知する。
けれど彼女の言う通り、気兼ねなく話が出来るのはこちらとしてもありがたい申し出ではあった。正直なところこのサーヴァントだらけのカルデアに気の休まる所なんて無く、常にベリアルや立香くん等と共に居て迷惑ばかりかけていたのだ。マシュちゃんも擬似サーヴァントだからか真っ赤になって近付いてくれなかったし。たまには同性と話をしたい。


「何か勘違いしてるようだが、アレもサーヴァントの一人だからな?」

「いや、でも、魔力封じの礼装はちゃんと働いてるっぽいし、ベリアルが気にする程だれも私のこと見てない気がする」

「ハハハ、当然だろう。なんの為に数時間ごとに魔力供給してると思ってるんだ?じゃなかったらなまえ、あっという間に喰われてたぜ」

「嘘でしょ」

「どうだと思う?」

「……、私ベリアルいないと生きていけない気がする」

「あぁー…、そういう煽る言葉は邪魔者が居ない二人の時に聞きたかったなぁ」


ベリアルは残念そうにそう言って何故か支える腕に力を込めた気がする。離してくれないのか。なんとも言えずそっとベリアルからカルデアのサーヴァントである女性、基殺生院キアラへと視線を移す。いや待って、何であんなにニヨニヨしてるんだ。


「はぁ、そこに在るだけで満たされるなんて…、なんと無粋で背徳的で気持ちの良い事でしょう」

「悪寒を感じる」

「ふふふ、怯えずとも今の私は禁欲中の身。取って食うなんて致しません」

「…本当に?」

「ええ。そんな勿体ない事はしませんわ」

「発言が危険だっ」


全身を這うようにしてその細められた目が私を見る。思わず震えてベリアルにしがみつく。何でサーヴァントって霊基が上がる事に肌蹴ていくんだろう。元々白い軍服のようなものを着ていたくせに、今では黒のドレスシャツみたいなもの一枚である。おかげでしがみついた先は白い胸板である。泣けた。気付いていて更に抱きしめてくるベリアルは性格が悪い。流石堕天司。


「残念ながら無駄についた肉になまえはそそられなかった様だ。観念してさっさと俺達から離れてくれないか?ああ、見るだけで構わないならそれでもいいが」

「まあ、酷い言い草ですこと。稀有な魔力に惹かれるは私たちサーヴァントが故。そこに何の違いがありましょうや」

「Huh…、確かになまえの魔力は魅力的だ。きっと俺の創造主も放っておかないだろう。だがその程度なら彼女の意思なんて聞かないさ」

「ふふふ、獣のようでいて実に人間くさい方ですね」

「召喚者に寄せられたかな?まあどうせここの空と俺達は関係ない。俺たちに何かしない限り、手は貸しても出しはしないさ」


明らかに不穏な会話が頭の上で飛び交っているのを私はただ黙って聞いていた。ベリアルの言葉には何の嘘もなかった筈だ。珍し過ぎる本心をこの数秒の内だけは口にしていた。ゆるゆると頬を撫でられ見上げれば、ベリアルは誰をも魅了する赤を細めて笑う。対するキアラさんは蠱惑的に微笑みながら私を見る。


「今日のところはここで手を引いておきましょう。マスターからお呼び出しもかかりましたし」

「あ、あの、お話し相手ぐらいなら。ベリアルが傍にいる時だけなら、大丈夫、です」

「まあっ、可愛いらしい申し出ですね!勿論、私は構いませんわ」

「コラ、なまえ。俺はイイと言ってないだろう?」

「ベリアルがいるなら、私も安心だし」

「…オーケイ、今日はその腹が膨れるまで満たしてやる」

「ふふ、決まりですね。それでは、また」


ぐらりとこの不可思議な空間に来た時と同じように意識を失った。目覚めた瞬間、何故か目の前には興奮した面持ちで私をベッドに押し付けるベリアルがいて、危うく令呪を使いそうになった。


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