plan | ナノ


▼ 傍に置いておきたい左近

話を始める前に言って置かなければいけないことがある。私はお世辞にも頭が良いとは言いにくい程、馬の鹿である。馬鹿である。ここは重要な所ではないので覚えておかなくて結構だ。むしろ忘れてしまった方が私としては嬉しい。
そんな私なのだが、場の空気はまだ読めるほうだと思う。神様は私の頭を弱くする代わりに世渡り上手にしてくれたのだと思う。


「だからと言ってこんな展開はいらなかった!」


とある城のとある部屋の一室で仰向けになって天井にそう吐き捨てた私は大きなため息をついた。
数日前まで私は城に住むような大層な身分のものなんかでは無かったはずだ。なんてったって農民!おっかしいな、何でこんな事になってんだ。


「なまえ!」

「出たな誘拐犯め!そこに直りやがれ!」

「おう!」

「待ってホントに直らないで」


スパァンッと襖を開けて部屋に入ってきたのは私をここに軟禁し、さらにはここの城主である島左近様であられる。素早く体を起き上がらせて某海賊の女帝のような格好で指をさしたら、ニコニコと笑みを浮かべながら従順にそこに正座した。慌てて私も目の前に座る。なんだってんだ、この人にはプライドとかそんなん無いのか。


「ちょっとちょっと、たかが農民風情にそこに直れって言われて馬鹿正直に直る人がどこにいやがるんですか。ここですよ!馬鹿野郎!」

「楽しそうだなぁなまえ。なまえが楽しいなら俺も楽しいぜ!」

「何を見て言ってるんですかあなたは」

「あ、そういやなまえちゃんと飯食ってねぇだろ。女中が言ってたぞ」

「そりゃ部屋にずっと居ますからね!運動もしてないのにお腹なんて減りませんけど!?」

「執務も何もなけりゃ俺もずっとなまえといるんだけどなぁ」

「仕事は大事ですよね!仕事してる左近さん超カッコイイです!」

「へへ、じゃあ頑張る」


あっぶねぇ。今の話の流れだったら確実に部屋に二人きりの状態が続くところだった。ただでさえ窮屈な思いしてるのに、誘拐犯と同じ部屋で過ごすとかノイローゼになるわ。
一度だけ部屋から出て城を抜け出そうとした事があった。その時城にいた左近さんの家臣らしき人(男性)に、お前誰?と捕らえられそうになって女中さんが助けてくれたことがある。城の全ての女中さんは私の存在を知っているらしいのだが、知らない人もいるらしいのだ。主に男性が。その後は見事に女中さんに部屋に連れ戻され、話を聞いた左近さんが飛んで来てそれはもう驚くぐらい取り乱していた。


「何で城の外に出ようとしたんだよ。外は出ちゃダメだって俺言っただろ?お腹空いたんなら部屋には菓子だってあるし、厠なら部屋出てすぐ隣。なまえは可愛いんだから部屋から出たらさっきみたいに男に言い寄られるから心配だったのに。ああでも俺を探すために外に出たんなら仕方ねぇけど、そん時は女中に言ってくれよ。ちゃんと行くから。本当に何もなくてよかった。どこも触られてないな?顔見せて、もう今日は俺の傍にいろ」


それはもう痛いぐらい抱きしめられて私の右手はその日丸一日左近さんと繋がれていた。ちなみに私を捕らえようとしていた家臣の男性はクビになったそうだ。…物理かとかそんなんよく聞いてないけど、左近さんが笑顔で話してた。それを期に私が無断で外に出ることはなくなった。
今までの話でわかったかもしれないが左近さんはちゃんと話を聞いてくれない。というか自分に都合の良い所しか聞かない。まったく調子のいい人だな!


「本当はなまえも戦に連れていきたいんだけどなぁ」

「えええええ、無理です無理です私ただの農民ですよ?怪我じゃ済まないですよ。殺されますよ。何言ってんですかもう冗談やめてくださいよ」

「うん。怪我とか殺される心配は俺がいるからねぇんだけどさぁ、それだとなまえを他の奴らの目にも晒すことになるから嫌なんだよなぁ」

「すごい自信だよ左近さん。あとちょっと腕離してくれませんか痛いです。どんどん力強くなってますよ左近さん?ちょ、左近さん?大丈夫ですって、私左近さんから離れないですって!」


話を始めた時から腕をガッツリ掴まれていたのだが、どんどんと握力が強くなってきているのが分かる。骨が折れるんじゃないかと思うほどの強い力に慌てて言葉を紡ぎ出せば、ふにゃりと笑って手の力を抜きするりとあまりにも自然な動作で手を繋いでくる。


「そうだよなぁ、なまえは俺以外見ねぇよなぁ」

「yesyes。私、左近さん以外の人は見ません。左近さん好きです、いやいやマジで」

「へへ、俺もなまえのこと大好きだ。これだけは賭けなしでも分かるからなぁ」


棒読みとか関係ないんだなぁこの人、なんでこんな私に執着してんだろうか。あれか、馬鹿な子ほど可愛いってやつがあるからかな?やかましいわ馬鹿たれ。


「なまえ?」

「……何でもないですよぉ」

「んー、そっか」


ため息をこぼす私は、ふにゃふにゃと笑う左近さんに絆されていた。…なんてあるわけないだろ、さっさと家に返せ馬鹿野郎。


剋O万hit記念



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