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▼ 友人はかく語りき

パトロクロスという人物を知っているだろうか。彼の英雄、アキレウスの竹馬の友と言っても過言ではないその人である。なにを言いたいのか分からない人は多いだろう。そのパトロクロスに、俺はなった。なったというか、産まれたというか。その話をする前に先ず、俺には前世という記憶が残ったまま産まれてきたという事を覚えていてほしい。痛々しいとかは自分でもよく分かってるから無視だ。まあ神話だの何だのなんてもんは、歴史の授業が欠点スレスレだった俺にはさっぱり分からん。興味がなかった。神話があれば生きていけると言った友人が、ペラペラと話してくれた事があるので、ほんの少し、名前は知っている程度の知識である。
兎に角、なまえという男の人生は、何故か時代を逆行してパトロクロスという人生を歩む事になった。


「いやぁ、まさか英霊なんてもんに召し上げられるとは思わなかったなぁ」

「オジさん色々と複雑なんだけど。殺し合った相手が食堂でお茶啜って平然と挨拶してくるんだからどう返してあげたらいいの」

「気楽にやろうぜ、ヘクトール。今度は仲間だろ?」

「何でそんなにあっさりしてるのアンタ」


複雑そうな顔をして深いため息をついたヘクトールは、かつての戦争で敵対した、というかヘクトールが言った通り殺し合った相手である。けれどもまあ自分自身こんな性格なもんであまり深く考えたりするのは面倒なのだ。俺がなまえの時からそうだったからもうコレは直らないだろう。
いやぁ、確かに以前見た時と全然変わらないなぁなんてヘクトールを見つつ、最近ハマっている抹茶を啜る。美味い。周りの奴らが召喚された英霊ってのは分かるけど、当時の本人達を見たことなんてないし興味も無かった俺からすれば本物かどうかなんて曖昧なもんだった。けれど見た顔であるヘクトールが召喚されている事で漸く本物なんだなぁなんて実感する。アキレウスはまだ喚ばれてないのか。ヘクトール見たら喧嘩するのかなぁ。


「あ、そっか。お前さん、殺された後あの男がどれだけ怒り狂ってたか知らないんだよね」

「ん?うん。流石に死んだあとの事なんて覚えてないよ。あ、服剥ぎ取られたことだけは覚えてる」

「鎧!!服じゃなくて鎧!!誤解を招くような発言はやめてくれるか!?」

「元気だなぁオジさん」


そんなに大声出さなくってもタダのジョークじゃないか。HAHAHA、誰がそんなこと気にするんだよ。笑いながらそう言えば、ヘクトールは気にするやつがいるんだよと心底から深いため息をついた。


「アンタさぁ、あの男とどんな仲だったわけ?」

「アキレウス?いや、友人だったよ。仲の良い友人」

「ただ仲が良かっただけで俺は引き摺り回されてないっての。何か他にもあるだろう?」

「他ぁ?」


あって当然だろみたいな話し方をされて頭を悩ませる。そんな何かあったっけな。お守りみたいな役柄も仰せつかってたし、水浴びは基本一緒、食事もどちらかに用が無ければ一緒に摂って、遠出するのも一緒、共寝もした覚えはある。でもまあずぅっとやってきた事だし、別段可笑しいところは無いだろう。あれかね、あん?ってなったのは戦車乗り回してる時に肩じゃなくて腰抱かれた位かな。笑いながら「お前はすぐ落ちるから」と言われたのは今でも根に持ってる。誰がおっちょこちょいだ馬鹿野郎。
やっぱり思い当たる節なんて何も無いなぁと、ヘクトールへと顔を戻せば何やら苦い顔をしていた。


「どうかした?」

「いやぁ、重たい友愛だなぁと思ってねぇ…」

「そう?」

「アンタの仇を取りに来たあの男の顔ったら凄かったよ。夢に見るわあんなもん」

「サーヴァントは夢は見ないけどねぇ」

「それもそうだなぁ」


ははぁと二人顔を見合わせて笑って、きっとアキレウスが見たら怒るんだろうなぁ。かつての敵と何普通に和気藹々としてるんだとかって、その後で俺にも構えよとか言ってくるんだ。アキレウスは子供みたいなやつだから絶対言ってくるね。玩具を取られた子供みたいになるね。パトロクロスの生涯の殆どはアキレウスと一緒にいたからね。分かる。


「まあでも、なまえって呼ぶのはアキレウスだけだしなぁ」

「何か言った?」

「んーん、早くアキレウスも喚ばれないかなぁって思ってさ」

「うわー、そんな事俺の前で言うの君くらいだよ。エルドラドのバーサーカーには言っちゃダメだよそれ」

「一回殺されかけてマスターに助けてもらっちゃったさぁ」

「馬鹿」


苦笑を浮かべたヘクトールに額を軽く小突かれた。ううん、兄がいたらこういう感じなのかねぇ。なまえでは兄弟なんていなかったし、パトロクロスではアキレウスみたいな弟しかいなかったからよく分かんないね。俺的にはアキレウスは甘やかし過ぎた感があるのでほんのちょっとだけ反省。弟みたいに思うともう可愛くて仕方ないんだよなぁ。お願いとかされた時なんか断れないし、何でも言うこと聞いてた気がするわ。お守りの役目を果たしてねぇなとか気にしない。


「なんで仲良くなってんだ!!!」

「ええー、何で俺怒られてんの?」


それはもう唐突な出来事だった。何で召喚すらされてないアキレウスが俺を抱きしめつつ怒鳴ってるんだ。夢かこれ。サーヴァントは夢を見ないはずなのに、どうなってんだ。聞きたいことは山程あったけど、何にせよまず始めに言いたい事は一つだった。


「ごめんなぁ、約束守れなくて。また名前呼んでくれると嬉しい」

「っ、このっ、怒りにきたのに…!も、馬鹿なまえっ!絶対ェ召喚されてやっからな!約束云々についてはその時に話があるからな!」

「ん、怒っても呆れてもいいから、また一緒に戦場駆け回ろうな。待ってるぞ、アキレウス」

「すぐ行く、走って行く。待ってろなまえ」


時かけかな?なんてツッコミを入れる暇もなく、肩を揺り動かされて頭を上げた時にはアキレウスは居なくなってて、ヘクトールが焦ったような心配そうな顔で俺を覗き込んでた。ううん、どうやら数分だけ意識が飛んでたらしい。どんな力技をやってのけたんだ友よ。


「突然勢いよく頭突っ伏すから、オジさん驚いたよ…。凄い音したけど大丈夫か?」

「平気。なんかアキレウスがタイムリープするらしい」

「…医務室行くか?」

「オジさん中々失礼な奴ね」


赤くなってるだろう額を心配そうな顔で撫でられて、ついつい笑ってしまった。


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