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▼ 騎士王の娘は恋に笑う

暇を持て余したらしい生徒会の役員達に呼ばれ、あれよあれよという間にお使い係となっていた。解せぬ。いや、俺だけなら全然構わないんだけれど、それに付き合っているなまえを巻き込むのは少し心苦しいというか。危険地帯に赴くわけでもないし、校内のお使いだからとなまえに言っても「マスターのお傍を離れません」とか少し寂しそうな顔して言われたら何も言えない。というか悶絶ものである。


「かれーぱん、は買わないのですか?」

「欲しい?」

「い、いえ!…あ、その、以前マスターに少し頂いた時、美味しいと思いまして…」

「カレーパンください」

「温めますか?」

「お願いします」

「マスター…!」


購買員の言峰神父に初めて温めをお願いした気がする。なまえが隣で喜色を含んだ声を上げたけれど、まったく俺のサーヴァントは最高だぜ。一つは頂けないからと半分にして俺に渡してくるなまえは、本当にあの騎士王の娘なのだろうかという位にゆるゆるの笑顔を浮かべている。まあ俺は騎士王を召喚したことがないので、なまえと似ているのかすら知らないけれど。


「待たせたな!」

「何処のボスですか?」

「お疲れ様です。頼んだものは買って頂けましたか?」

「ありがとう岸波君」


ラニはノリに乗ってくれたというのに、レオも凛も冷たいやつだ。頼まれた物(ほぼ食べ物)を机に並べ、各々それに手を伸ばす様を眺めながらカレーパンを口に頬張る。時々頬についたらしいパン屑を指でとってくれるなまえは本当に可愛い。新婚夫婦かな?


「というか何で岸波君はカレーパン食べてるの?しかもなまえと一緒に」

「わ、私の我儘に付き合ってくれているんですっ。マスターは悪くないですっ」

「俺が食べたかっただけなんだけど、一つもいらないからなまえに半分食べてもらってる」

「アレが惚気ですか、ガウェイン」

「そうです、マスター。ここにモードレッドがいたら、さぞや彼に敵意を剥き出しにしていたでしょう」


恐ろしい会話はやめて欲しい。俺はただカレーパンが食べたいと言った可愛い女の子に、カレーパンを買ってあげただけのこと。おれは、なにも、わるく、ないっ!


「ミスなまえは、自国の料理はお好きなんですか?」

「ええっと、その、好きとか嫌いとかではなく、自分の国から出たことがありませんから。出されたものは食べましたね」

「私も僭越ながら、姫に料理を振る舞う機会がございまして、マッシュポテトの方を作らせていただいたことがあります」

「アレは料理とは言わな…いえ、とても、その、個性的な味でした」

「…大丈夫じゃない事だけは分かったわ」

「ガウェインは料理下手ですから」


ニッコリと、それはもう輝かんばかりの笑顔で言ってのけたガウェインとは対照的に、何を思い出したのか真っ青な顔で口元を引き攣らせるなまえに凛が同情の目を向けた。レオはもうちょっと歯に衣着せた物言いをして欲しい。ガウェインに聞こえてたらどうするんだ全く。でもそうか、なまえは自国の料理しか食べた事がないなら、購買で売ってるような食べ物なんてどれも新鮮なんだろう。


「料理はあまりしないけど、中華系は得意よ。今度食べてみる?」

「中華!是非っ!」

「ミス遠坂、私もご相伴に預かりたく」

「いいわよ、別に。大したものは作れないけど」

「中華料理は初めて食べます!」


ここに桜がいたら完璧だったのではと、レオと顔を見合わせる。桜は保健室でやることがあると生徒会室から出ているらしく、非常に残念に思う。何を言われずともビデオカメラを起動させているガウェインを見れば、微笑ましそうになまえを見ていて、保護者みたいな反応をするなぁと思った。ビデオカメラが更にその事を助長させている。授業参観か。挙句の果てには「ここに王がいたら…」みたいな反応するから親戚のお兄さんみたいな感じが出ていた。


「でも何でカレーパンなのかしら。購買なら他にもあったでしょう?」

「確かに。食物なら購買員に言えば別枠として売ってくれるでしょう」

「それは、えっと、その…」


不思議そうに首を傾げる凛とラニに、そう言えばそうだと自分自身も首を傾げる。レオは何やらこちらを見てニヤニヤしており、ガウェインは何かを察したように薄く笑みを浮かべている。ブレずにビデオカメラを固定しているところは流石だと思った。
白い頬が薄い赤で彩られ、熱を抑えるように両手を頬に当てたなまえは、幸せそうな笑顔を浮かべて小さく口を開く。


「マスターが、初めて私と一緒に食べてくれたものですから…」


思い出深いんです。と言ったなまえに、なまえ以外の全員の目がこちらを向いた。ニヤニヤと口元を緩める者、呆れたような視線を向ける者、微笑ましいものを見るような者。自分はというと、あまりにも衝撃的な言葉に顔が赤くなっているのが分かる。


「告白みたいですね」

「結婚しよう」


レオの面白そうな声に、口をついて出た言葉はまったくこれっぽっちも嘘偽りないものだ。ガウェインが「頑張ってください」と笑った。騎士王様、双子の片割れのモーさん様、娘さんを僕にください。


□250,000hit記念



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