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▼ 京楽と浮竹は旅をさせない

結婚願望が無いのかと父上に怒られてしまった。そんなことは断じてないと机に足を乗せて握り拳を作り、何故か私には男が出来ないのだと不名誉極まりない事を大声で叫んだ。父上は発狂一歩手前の私を見て一瞬黙った後に、ならば見合いなんてどうだと分厚い本のようなものを取り出した。


「父上、時代は恋愛結婚ですよ」

「父上そんなんしとらんもん」

「大の大人がもんとか付けても可愛くもなんともねーんですよ」


お見合い写真を机に叩きつけて、せっかくの休暇なのにと思いはしたものの、家では休めそうにもないので仕事場へと逆戻りした。七緒に愚痴りにきたというのに仕事で忙しいと追い返されそうになって、慌てて手伝うから聞いてくださいと頭を下げる。面倒見のいい七緒はため息をこぼして、少しだけならと了承してくれた。


「父上に結婚願望無いのかって言われてさぁ、あるに決まってんじゃん。出会いがないだけで、今すぐにでも結婚はしたいよ」

「したらいいんじゃないですか?」

「出会いがないんだって。あとやっぱり恋もしたいじゃん?」

「…そうですか」

「恋がしたいのに、やってきたのはお見合い写真て言うのが悲しい」

「まあ、隊長が元気な内はきっと出来ませんよ」

「何で春水?」


二つ歳上だった筈の春水が突然話に出てきて首を傾げる。今春水に関して何の話もしてなかったよね?問いかけてみても七緒は肩を竦めてみせるだけで、答える気は無いらしいけどお姉さんは気になる。おい誰だババアっつったの、前出ろ、前だ。
京楽春水と浮竹十四郎は私の幼馴染のお兄様である。それはもう可愛がってもらったわけだけれど、それが今現在も続いているっていうんだから面倒この上ない。私がなにか反論しようものなら「こんなに可愛かったのに」とか言ってきて、昔の話を掘り返してくるのだから恥ずかしい。決まってその後に「今も十分可愛い」と春水も十四郎も笑って言う。羞恥でしかないよね。こちとらもう成人もとっくに過ぎた大人だっていうのに子供扱いですよ。二人といる時の周りの人達の目が、これでもかってくらいに同情の目をしてくるから余計に。


「なぁにしてんの、なまえ?」

「休暇じゃなかったのか?」

「出たなこの野郎元気ですかこの野郎!」

「いい感じで酔えそうな位には元気」

「今日は身体が軽くてな。随分楽だよ」


背後から掛かった声に振り返れば、二人揃って私を見下ろしてくるのだから圧が凄い。七緒は一度頭を下げて「失礼します」と去っていってしまった。私も連れて行ってほしかった。内心ため息をこぼしながら、先程七緒に話したように二人にも結婚願望云々の話をしてやる。


「はぁー、あの親父さんがねぇ」

「まあなまえも、もういい歳だしなぁ」

「とうとうお見合いなんてもんに手を出してきたか」

「バカ言っちゃいけませんよ、時代は恋愛結婚」

「相手がいねぇと意味は無いなぁ」

「ぐうの音も出ない」


春水の言葉に一気に崖に落とされたみたいな感覚がした。思わず十四郎に抱きつけば、優しく抱きとめられて頭を撫でられる。あー、落ち着くのう。頬に触れた白い髪はそれはもう女子からすれば羨ましいことこの上ない程のキューティクル加減。男にも天使の輪っかとかできるんだね。天使ってか死神なんだけども。それを握り歯軋りしそうになっていたら、目の前に顔を覗かせる春水が色気たっぷりの笑みを浮かべて見せた。そう言うのは意中の女にやれとあれ程っ。


「まあ顔で選ぶなら僕よりいい男を選べよ?」

「何その攻略法皆無なクソゲーは」

「あー、ホントなまえは可愛いねぇ」

「十四郎が私を露骨に甘やかしてくるのも問題だ。ちょっと嫌なこと言われたら我慢出来ない」

「なまえは甘やかされ上手だから仕方ないな」

「私のせい…だと?」


見上げた先の十四郎が優しく笑っているから、文句を言おうとした口は中途半端に開いて止まる。二人が私に甘く弱いように、私も存外この歳上の幼馴染に弱いのだ。大きな手のひらで頭を撫でてきた春水は、喉の奥で笑って「いい子だ」と世の女性が聞いたら卒倒するような声で言う。


「見合いで幸せを掴める奴なんざ極一部だ。なまえはその一部に入れるか?」

「…春水と十四郎が入れるって断言してくれるなら入れると思う」

「じゃあ無理じゃないか?なまえは俺たちといる方が楽しいだろう?」

「うん。でも結婚はしたいんだなぁ」

「なら俺たちとするか」


十四郎の言葉に驚いて顔を上げた。笑う二人の顔はどこか真剣味を帯びていて、何か言おうとして開いた口は空気を吐き出して閉じる。二人して何か企んでいるんだろうか。この二人は私を可愛がると同時に、からかう時も全力だから疑ってしまう。真意を確かめようと二人の目を交互に見た。これが春水の言葉なら冗談やめろよバッキャローぐらいは言えたんだけど、そこに十四郎が入ってくるのだからもう何がなにやら。正直二人が調子に乗るから言いたくないのだけれど、私もこの二人がお婿さんならば家庭円満の日々を送れるんだろうと思う。でも今まで幼馴染と言うカテゴリーに入っていた二人を、いきなり異性として見ろと言われても難しい話なのだ。若い子はそういうの簡単なんだろうけど、大人になればなるほどそういう切り替えって難しいのだ。ババアっつった奴、禿げる呪いをかけてやるからな。


「うーん、男として見れない」

「そういうだろうと思った」

「当たって砕けちまった」


カラカラと笑う二人に首を傾げ、取り敢えず同じように笑ってみれば二人揃って頭を撫でてきた。ううん、子供扱いもまあ偶になら悪くは無いかなぁ。


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