plan | ナノ


▼ 長年連れ添った夫婦は似るというが

「まあまあまあ、まあ!」


驚いたというような、それでも何処か落胆したかのようなそんな声が高らかに響いた。それはまあ目の前に佇むエリザベートに向けてのもので、こんな表情をするなまえは初めて見た気がする。私に対しての態度は世話焼きのお姉様という言葉がピッタリだ。最近言葉遣いも滅茶苦茶気を付けていますお姉様。通信先から「白野のなまえ化が止まらない」とか聞こえた気がするけど気のせいだろうか。


「あらいやだ、こういう時って何と言えばいいんでしょう。王ならピッタリのお言葉を見つけてくださるのに…」

「何度も出てきて恥ずかしくないんですか?」

「その少し馬鹿にした態度、嫌いじゃないわマスター」


ふんわり微笑むなまえは優しく、それはもう壊れ物を優しく扱うかのような手付きで頭を撫でられ、ちょっともう普通に好きになりそうで困る。
真っ赤な顔で怒りを顕にするエリザベートを他所に、戯れる王妃様のなんと麗しい事か。本当にギルガメッシュの王妃様だとは思えない程の優しさ。はて、私はギルガメッシュと契約した事があっただろうか?
エリザベートのマスター(付き人)になったシンジには多少驚いたものの、まあこうなってしまっては仕方ない、全力で叩き潰しにいこうじゃないか。手伝って下さいとなまえに言えば、ふんわりとまた柔らかく笑って頷いてくれた。
走ってアリーナを駆け回り、襲ってくるエネミーはなまえが悉く退けてくれる。アイテム回収も怠らず、奥へと進んでいけばエリザベートとシンジが立っていた。


「お前…、アサシンの癖に強過ぎやしないか!?」

「これでも王の傍にいたものですから。気配には敏感ですの」

「私のサーヴァントは最強なんだ!」

「子リスの癖に生意気よ!」


胸に手を当て微笑むなまえの後ろで胸を張ってそう言えば、何処ぞのゲームを彷彿とさせる言葉を吐き捨てられた。私にも死亡フラグが立っているだと?気のせいだ。言い忘れていたけど、なまえはアサシンである。普段ふわふわしている王妃様だけれど、こと戦闘に関しては目の色が変わるというか。ギルガメッシュに危険が迫った時に、身を呈してでも守れるようにと言っていた。それで夫婦喧嘩に達したこともあるらしい。残念なことに、私は口であの人に勝てた試しがありませんけれどと頬を膨らませるなまえは大変愛らしかったと記しておこう。何処からか高らかな笑い声が聞こえた気がする。
エリザベートの二つのSGを手に入れた後。桜の内部に侵入したメルトリリス、ウイルスを駆除するべく「万色悠帯」を使用してなまえと共に桜の体内へ入り込む。体内へと無事入ることが出来た私となまえの目の前に立ちはだかったのは、何故かエリザベートで。驚きその姿を見、マスターがメルトリリスへと変わったのだと声高に言った。


「随分と余裕が無いのね。追い詰められているのは、私達だけじゃないみたいですよマスター」

「ああ、早く桜を助けよう!」

「はい。行きましょう」


ふわふわと微笑み、背後を着いてきてくれるなまえはとても頼りになる。パズルのような部屋に出た時は、助言をくれ、エリザベートすらも華麗に一蹴したなまえはきっと、たぶん、何処かテンションが高く、非常に面白がっている風であった。


「今回は、私でさえ解けなかった神のパズル。アナタ程度に解けるはずがないわ」

「まあ!それじゃあ三分で解いちゃいましょうマスター!大丈夫、貴方はお利口さんですもの、こんなの御茶の子さいさいよ」

「私は…お利口さん!」

『なまえの言葉って上手いもんよね…。いえ、これは白野がチョロいのかしら』

『会長は褒められると伸びるタイプですから』


凛とラニから何やらちょっと呆れたようなお言葉をもらったものの、なまえに褒められてしまってはご期待に沿うしか無いだろう。任せろ、私は存外パズルというのは得意なのだ。マップやスイッチの場所等を照らし合わせ、アイテムも回収しつつ先へと進む。とうとう最後の扉を開き奥へと進めば、そこに立つエリザベートのその顔は、面白いぐらいに驚きに染まっていた。だが困った事に、彼女のSGについては何の収穫も無い。話を始めようと足を踏み出した所で呼び止められた。


「よく出来ました、マスター。御褒美に、私が彼女の秘密をサラッと暴いちゃいましょう」

「わ、分かったの?だってエリザベートは何も…」

「いいえ、マスター。彼女は言葉の端々にそれを見せていましたの」


まあ、ここは私にお任せください。と微笑んだなまえは、とても愉快気な顔をしていた。エリザベートの前に立ったなまえは優雅に一礼をして、その艶のある長い髪を揺らす。


「な、なに?私はアンタに用はないんだけど…。それとも最後にどんな死に方をさせてもらおうかっていう話でもしに来たの?」

「いいえ、そんなこと。私はただ少しお話をと思いまして」

「話?アンタに話なんて」

「時にエリザベートさん、貴方、男性と愛を確かめあった事はありますか?男性の肉体を見たことはおありですか?」

「……………え?」

「あら、生娘の貴方には少しお早いお話でしたか?」


途端にエリザベートの顔は湯気が出そうなぐらいに真っ赤になった。というか、え?エリザベートが生娘?いや、そんな事の前になまえの口からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。それを知ってか知らずか、なまえは頬に手を当てて息をついてその目を細めさせる。何だろう、何というか、官能的に見えてしまうのは、私の視界にフィルターでも掛かってるからだろうか。


「王はそれはもう素晴らしいお方でした。あの手や言葉、それにあの眼差しはサーヴァントになった今でも、忘れられるものではありません」

「な、なななななっ!!!」

「そんなお方は、貴方におりましたか?」


ううん、妖艶だ。とか言ってる場合ではなかった。私の右手が疼くと同時にエリザベートが一度体を縮こまらせ、そうして光り、いつものようにそれに向かって手を伸ばす。まさか、エリザベートが処女だったとは…。いやそれ以前に、なまえのあの普段のふわふわ具合からの変わりようといったら…。もし私が男だったらクラッときちゃうかもしれない。怖い程の寒気がして思わず両手で体を抱く。


「ば、ばばばっ」

「ば?」

「バーカバーカバーカ!!うきゃーーー!!」


発狂しながら走って去って行ってしまった。SGを取られてのショックというより、衝撃的な言葉にもう語彙力すらも吹き飛んでしまった様子だった。なまえはというと、先程のことは幻だったかのように普段と変わらぬふんわりと柔らかい笑みを浮かべている。


「お見事ですマスター。鮮やかな手裁き、王にも見て頂きたいほどです」

「いや、うん、ほぼなまえのお陰だけど」

『…王妃様って、時々すっごく突拍子も無いこと言い出すわよね』

『…英雄王の影響か、考えたくはないですが元からの性格なのか』


凛は呆れたような声色で、ラニは考えこむように。ともかく三つ目のSGは手に入れることが出来た。後は奥へと走り去ってしまったエリザベートを追いかけ、ウイルスを駆除してしまわなければ。


「さあ、マスター。先へ進みましょう」

「うん」


夫婦は似るというけれど、この人達の場合はどちらがどちらに似たのだろうか。


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