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▼ 理不尽で満ちている(松永ver.)

小学五年生の頃に、白と黒の羽根が入り混じった不思議な梟を拾ったことがある。街中にポツリと死んだようにそこにあった梟は、微かながらに息があって、見れば広げれば大きいだろう羽根に見るも無惨な傷があった。幼い私にとって瀕死の状態の鳥なんて見たことも無く、そのあまりにも酷い怪我に青ざめた。慌てて手提げ袋からタオルを取り出し、傷にさわらない様に包んで家へと走ったのを覚えている。母もその状況に驚いて直ぐに近くの動物病院へ連れて行ってもらい、傷を覆うように包帯が巻かれしっかりと処置された。その後はまあ梟なんて飼ったことも無いし、世話ができるとは到底思えないと言う母の決断でそのまま病院の方に預けてしまった。別れ際に泣きながら梟に対して何か口走った気がするけどよく覚えていない。良い思い出という事にしておこう。
中学三年生頃から小火騒ぎが頻発していると、学校側から火元には気を付けるようにと注意を受けた。しかも小火があるのは私の同級生の家である。友人と怖いなぁとか、次は私の家かもしれないなぁとか話をしたけれど、私も友人もそんな被害にあったことは無かった。
今現在、花の女子高生二年目を謳歌している私に、とても不思議なことが起こったのだ。中間テストという物が迫る中、皆の顔もテストが近付くにつれて窶れたものへと変わっていく。私もその例外ではなく、自習となった教室で友人達と机を囲んで勉強に勤しみながら、耐え切れなかった愚痴をこぼした。


「数学ヤバい。次落としたらホントにヤバい」

「テストなんて無くても生きていけるよ…」

「学校が無くなったらテストも無くなる…?」

「いやなまえ、どんだけ追い込まれてんの」


数字の羅列に頭の中がこんがらがる。友人達と思い思いに愚痴りまくり、ほんの少しだけ心が軽くなった。だからと言って追い込まれている事には変わりないけれど。
次の日、驚く事に食堂が爆発した。いや本当に意味が分からなかった。食堂のおばちゃん達は何故か気を失って校庭の隅の方に寝かされていて、怪我人や死傷者は奇跡的に誰もいない。大事をとって全校生徒が家へと帰され、学校は警察関係者で溢れかえっていると、隠れて様子を伺っていた友人が興奮気味に電話してきた。携帯を耳に押し当てている私は、それどころじゃなかった。


「おや、おかえり」

「どどどどど何方ですか!?」

「その顔は以前見た時と変わらないな」


いや実に良い、と言葉を続けたのは私の家で優雅にお茶を飲むダンディズム漂う紳士。男性の方は私の事を知っている風な口振りだけれど、会ったことも見たこともない人である。いや本当にどちらさまでしょうか。静かに笑みを漏らす男性に激しく動揺しながら、もしや母か父の友人なのかもしれないと必死に忙しない心臓を落ち着かせる。私が赤ん坊の時の友人ならば、私が覚えていないのも頷けるのだ。


「残念ながら、君の母と父の友人ではないんだ。いや、残念」

「コイツ私の思考を…!?」

「なまえ、君の事なら手に取るようにわかるよ」

「いや本当にどちらさまでしょうか?」

「まあそう急かす話でもない。先ずは君の手にあるそれから雑音がして不愉快だ。切ってくれないか?」


言われて繋ぎっぱなしにしていた携帯に気付いた。適当に話をつけて切り、ゆるりと笑う男性に促されて目の前の席につく。いや、何を悠長に座ってるんだ私は。不法侵入者じゃないか、警察呼ぼう。携帯を手に取り、画面を開こうとしてバチッと火花が散ったような音がした。一瞬の焼けるような痛みに驚いて手を離し、落ちた先で携帯が煙を上げて暗転する。焦げ臭い匂いに漸く携帯が壊れたのが分かって、訳も分からず動揺した。


「先ずは挨拶からいこうか。この姿では初めまして、私は松永久秀と言う」

「え、あ、その、なまえです。初めまして」

「私は君たちが言う妖怪というものでね。まだそこは明かせないが、梟に纏わる妖怪とだけ言っておこう。賢い君なら直ぐに分かるだろう」

「はあ」

「私は少し前に君に命を助けられてね、恩を返しにやって来たんだ。それと共に約束を果たしにきた」


この年齢で中二病を発症してるのはちょっと、いやかなりキツいものがあるぞぅ、とまあ大変失礼なことを思いつつ話を聞いていたのだけれど。心当たりなんて全くこれっぽっちも無い。私はこの如何にもアダルティーな雰囲気のおじ様を助けた覚えなどないし、約束なんてもの知らない。人違いじゃないのかと松永さんを見つつ、それでも梟という単語だけどうにも引っかかった。あの梟は元気にしているんだろうか。


「『次また会えたら私がずっと傍にいる』」

「…え」

「約束通り私は君の、なまえの嫁になりに来たよ」

「せめて婿と言って欲しかった!!」


いやそれも違うけど!叫んで机を両手で叩いた。地味に痛い。傷付いた梟に対して確かにそんな事を言った気がするけど、流石に嫁とか婿とかそういう意味じゃなかったと思うな昔の私は!もっとこう純粋な気持ちで傍にいるって言ったはずなんだ、幼いちんちくりんの私は。
ニヤニヤ笑う松永さんにそもそも貴方に言った言葉じゃないですと指させば、私がその梟だとまたも飛び出してきた中二病発言に口元が引き攣る。頭を抑えて苦い顔を隠せば、ぼわんと目の前が白で霞んだ。


「これで分かって頂けたかな?」

「……しゃべ、喋ってる」

「それはそうだ。妖怪だからね」


晴れた視界には昔見た時と変わりない、否、少しばかり大きくなった白と黒の羽根が入り混じった梟が机の上で鎮座していた。パクパクと口を開けて言葉を話す梟に、もう頭の中はグチャグチャだ。一瞬似た梟なんじゃないかと疑いはしたものの、記憶に残っている傷の痕が薄いながらも残っていて。もうなにも言えない。


「ちなみに私は火薬の扱いにも少し長けていてね、なまえの周りに潜む妖怪や醜い人の子からも護っていたんだよ。出来た嫁だろう?」

「…今日の食堂の爆発はもしや」

「昨日、学校が無くなればと聞いてね。流石にあの規模を灰にするとなれば、私も少々疲れてしまう」


つまり松永さんが言うには、全て私のためを思っての行動らしい。どうだと今にもドヤ顔を決めそうな松永さんに、私はとうとうキャパシティオーバーを引き起こした。褒めてくれと言わんばかりの表情を少し可愛いと思ってしまった私は、多分勉強で頭が疲れていたんだと思う。


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