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真選組改め、まん選組の彼女等を率いる金髪美女の近藤さんと、栗毛色の髪を高く結った美少女の沖田くん、そしてその中で一際目立つのが誰よりもふくよかになってしまっている土方さんの姿。沖田くんが言うには今迄に蓄積されたマヨネーズのカロリーが吹き出して、この様な体型になってしまったのだとか。ううん、何というか残念な気持ちが大きい。


「まあでも、肉付きの良い可愛い女だとは思うが」

「うううう、うるせぇ!どんな女も口説くなまえだって痩せた女の方が好きなんだろーが!!」

「ったりめェだろーが!なまえがお前ェみたいな豚に傾くか!!X四郎は黙って加工されてろ!」

「こんな所で修羅場ってんじゃねぇよ!心まで女になったかァァァ!!」


柔らかい頬をつついてやれば、顔を真っ赤にさせる土方さんに新鮮な気持ちを覚える。みんな女になってから乙女思考が強くなってるのは気のせいなのかしら。面白いからついからかってしまうけど。あと坂田さんは、何でそう土方さん相手だと突っかかっていくのか。


「邪魔立てするようなら貴方達も異教徒と共に排除しますよ」

「異教徒?残念ながら私達から言わせるとアナタ達の方が異教徒だ」


信者の言葉にまん選組率いる近藤さんは腕を組んで高圧的にそう言ってのけた。その外見と伴いかなり様になっている。土方さんの話で出てくる近藤さんは、お妙ちゃんの愛の戦士(付き纏い)だと聞いていたけどあの姿からは本当に想像もつかない。どうして性別が変わっただけでこうも違うのか不思議だ。


「これ以上この街で好き勝手にさせない!異教徒ども!!」

「……え?」


まん選組が刀を向けたのは何故か私達の方で。理解も出来ず言葉も出なかった。大人しくお店でママに弄られていれば良かったと、ため息と共に額を抑える。


「まさかアンタら…!」

「悪いけど、私達がこの街を護りに来たのはアンタら異教徒からよ。既に政府はデコボッコ教を国境にすえようと動き出しているの」

「そっ、そんな!」

「私たちは国境に仇なすあなた達、異教徒を取り締まる為に送られてきたってわけ」


沖田くんと近藤さんの言葉に納得を示したようで、ここは任せると言って去って行く信者達の背を見ながら近藤さんは息をついた。
かぶき町中に取り付けられている監視カメラの数は山程ある。元から治安があまり良いとは言えない街のために、何か事件が起こってもその監視カメラを通して解決に繋がる事もあるのだとか。まあ大体の監視カメラは店舗ごとの防犯目的で作られたものばかりだけれど、それが今回は仇となった。デコボッコ教に街の監視カメラが全て乗っ取られたと言うのだ。


「警察仕事しろ」

「耳に痛いでさァ。これでも頑張ってるんですよ」

「コラ、胸を押し付けるな。自分の体は大事にしろ」

「テメッ、このビッチ女!なまえに気安く触ってんじゃねェよ!その役は俺だけで十分だわ!」

「ちょっともう疲れてきました…」

「新八くん、ツッコミ放棄はいけない」


沖田くんの柔らかな胸が腕に押し付けられてくるけど、元々私は女だから意味が無いことは分かってるんだろうか。新八くんが疲れたような、うんざりするような顔で息をつくのでそれだけはいけないと首を振る。私に高度なツッコミ技術は無いのだから、その役柄を拒絶してはいけない。頬をつつけば「やめてください」とそっぽを向かれた。


「…もしかして君達は、以前からあのデコボッコ教を追っていたのか」

「…広域指名手配中の宗教団体がこの星に接触を企んでるとの情報が入ってな。この街を根城にしてるのを掴んだまでは良かったが、まさか奴らがこうも早くカミサマを使っちまうなんざ。お陰で俺達もこのザマさ」

「カミサマ?」


十兵衛さんの言葉に答えた土方さんは、煙草を蒸して一度息をついた。落ちそうになった煙草の灰に、思わずお店でも使っている携帯灰皿を取り出す。少しばかり血色の良くなったその顔は、丸みを帯びていても可愛いと言えるもので自然、笑みがこぼれた。
デコボッコ教のカミサマとは人工衛星だという。人体のホルモンバランスを操作できる特効薬を研究している最中、男女逆転という今の私達の状態の薬が出来てしまったらしい。過激な布教活動を展開しだしたのはそれから。神の裁きなんてものでは断じてなく、ただ攻撃型人工衛星から発射されたホルモンを逆転させるウイルス。


「感染力は?」

「無い。問題は衛星をいかに止め、身体を戻すワクチン手に入れるかだ。衛星は異変が起これば自動的に地球にウイルスが発射されるシステムらしい」

「つまりこの事態を収束するには、教団を直接潰さなくちゃならないと。そんな事が出来るのはこんな身体になった自分達だけだ、と」

「あぁ。連中の監視をかいくぐり、その根城を捜し出し、破滅のスイッチが押される前に連中を一網打尽…、そんな離れ技ができるならな」

「…打つ手無しか」


土方さんの言葉にため息をつき、未だ腕に引っ付いてくる沖田くんの額を指で弾く。頬を膨らませるその顔は、まあ女の私が言うのもなんだけれど、随分と可愛い顔でヤキモチを妬きそうな程だ。こんな妹がいたらずっと可愛がってあげたいわね。


「監視カメラをハッキングするのは分かったけど、何で一人?」

「なまえさんは手当たり次第に口説きまくるので、ちょっと距離を置いてあげてください。あの人たちの喧嘩はもう見飽きたんで」

「勝手なことすんなよ新八ィ。なまえがもし見つかったらどうすんだよ。抵抗も出来ずに奴らにあんな事や…こんな、こと…」

「銀さん頼みますから今の状況を見てください。なまえさんは男で、顔を真っ赤にして想像することは何もありませんよ」

「だが流石に一人ってのは危険だろ。仕方ねぇ、俺がついてってやる」

「トシ、お前アイツ一人じゃ何やらかすか分からんから総悟について行くって…」

「ううううるせぇよ!空気読めや野ゴリラ!」

「じゃあ神楽ちゃんについて行こうか。兄弟みたいで良いもんだろ?」

「今の絵面ちゃんと分かってますか!?」


新八くんが言うには私がこの団体にいる事に問題があるらしい。まあそれもこれも教育したママの責任になるんだけれど、今いない人に文句を言っても仕方ない。一人で大丈夫だと言って、ある程度のハッキング装置を貰い受ける。山崎さんに付け方を教わり、その際に初な反応を見せる山崎さんが可愛く見えて、少しからかったら新八くんに「それが駄目なんです」と言われて少しばかり反省。文句を垂れる一部に苦笑してその場を離れた。
男の体は体格がいい分重い。肩が凝りそうだと息をついて、視線を上へと投げつつ歩みを進める。


「なにか情報はあったか、なまえ?」

「…あー、そんな急に顔を出してこられると困る」

「顔がいい男は苦労するなぁ」

「自分で言うのか、それ」

「まあなまえも色男になってるんだからおあいこだろ」


目の前に現れた端正な顔立ちの男は、数時間前分かれた見知った顔。だからと言って慣れた訳では無い。月詠はかなり美人だったけれど、月雄はかなりの男前になってしまって少し目のやり場に困る。そんなのが音もなく、瞬きの間に目の前に現れたら息を飲んで驚くのも仕方ないというもの。
ため息をつき、月雄の背後に立つ男に気付いて目を向けた。菫色の短髪に赤眼鏡を掛けた美青年。月雄の友人らしいが、何故か親の仇を見るような目で睨みつけてきて首を傾げる。臆せずその顔をまじまじ見つめていれば、その赤眼鏡で漸く思い至った。


「猿飛さんか」

「遅いっ!!」

「坂田さんとは上手くやってるのか?」

「当然っ!昨日も仲睦まじく、くんずほぐれつの取っ組み合いをしてきた!」

「取っ組み合いを仲睦まじいと言っていいのか猿飛」


腰に両手を当てて胸を張った猿飛さんに、呆れたようにため息をこぼした月雄。当然のようにそこに豊満な胸はなく、男らしい胸板が存在している。
猿飛さんは坂田さんがお店に来る時に、よく天井裏から来店する珍客の一人だ。妙に突っかかってくるのは坂田さんに好意を抱いているかららしく、それを躱す為に二人の仲を応援していた。それが幸を成してか、偶に惚気話(本人談)を自慢気に、しかもお店で態々私を指名してまで話してくる。常連が増えるのは有難いことだと無理に納得させた。
情報と言っても真選組から聞かされたものだけれど、一応聞いたものは全て二人に話せば、所々は二人とも知っている様子らしい。流石に情報を掴むのは早いと苦笑してしまう。


「それで、元男共はどうしているんだ?」

「コレを監視カメラに付ける作業に移ってる」

「まあ流石に、元に戻る為。馬鹿なことはしてないだろう」


猿飛さんが腕を組んで言った直後、大通りを駆け抜けて行ったのは坂田さんと土方さんで。「どっちがモテるか勝負じゃァァァ」と聞こえた大声に、私はもう顔を覆って嘆くしかなかった。彼らと離れた途端に何があったんだろうか。あと何で新八くんは止めてくれなかったのか。
深い深いため息を落とした後、ふと二人の反応が無いことに気付いて顔を上げた。


「「つかえない」」


ピッタリと重なった二人の声と、その表情は誰が見ても嫌悪感を顕にしたもので。女性の時もそれはもう逞しかったけれど、男性になって更に漢気なんてものが加わったものだから、非の打ち所がないほど完璧なものになった。きっと二人が元々男で生まれてきていれば、私はどちらかに惚れていたんじゃないかと、逃避行し始めた頭でそんなことを考えていた。


2017/11/01