■ 出荷箱にて

愛馬であるハヤブサに乗って山道を駆け下りる。ぶわりと頬を掠める強い風に目を細めながらその爽快さに小さく声が出た。


「ご苦労さま」


ハヤブサから降りてその顔を両手でよしよしと撫でてやれば、嬉しそうに擦り寄ってくる。ああ可愛い。私の馬はこんなにも可愛い。
疲れただろうハヤブサにカバンの中から人参を取り出して口元に近づければ、パクリと人参を齧る。ご機嫌のようだ。
もう一度毛並みを撫でてやってから大きな出荷箱の蓋を開く。これもいつの間にか出荷されているから四次元なのではないかと噂されている。七不思議になるのも時間の問題だ。
採れた作物をポンポンと出荷箱に入れてリストの確認を行う。今回は春の作物のレートが上がっているらしい。


「じゃがいもと、きゃべつ、それからいちご」

「お?なまえちゃんじゃん」


気怠そうなその声に振り返ればキラキラと輝く銀色に思わず目を閉じた。「うお、まぶしっ」とかリアルに言ったのは初めてだ。
小さく笑ったその人が私の頭をポンポンと叩いたのを合図にゆっくり目を開けば、木陰に入った銀時さんの姿があった。脇には何やらダンボールを抱えている。


「今日はどのレートが上がってんの?」

「一番上がってるのは春の作物。二番目に装飾品で、三番目は料理」

「おっ、じゃあ俺も今日は羽振りいいかもしんねぇなぁ」


出荷箱の近くに置いたダンボールから取り出したのは複数の少し大きめの封筒。そこから出てきたのは輝くアメジストやエメラルド、それから滅多にお目にかかれないピンクダイヤモンドまで。意識が飛びそうだった。目を見開いてそれを食い入るように見ていれば、銀時さんは笑って頭を撫でてくる。


「モノ探しの依頼でな、今回当たった仕事が採掘関係だったわけ。神楽が掘って見つけて新八が磨いて俺が届けるって感じでな」

「是非とも神楽ちゃんにご教授願いたい」

「なまえちゃんにはちょっと難しいからそんな必死な顔しないで、銀さん女の子を危険な目に遭わせたくないんだよ」

「か、神楽ちゃんは男だと…?」

「いや違ぇけど。アイツは男よりも力あるしな」


大きめの封筒に宝石を入れて出荷箱にポンポン投げ入れていく銀時さん。これできっと銀時さんの依頼も終わったんだろう。


「あら?なまえちゃんに、10代の少女を雇わせてるロリコンさんじゃない。なまえちゃんに変なことしてないでしょうね」

「ちょっとマリアさん!?誤解を生む発言やめてくんない!?」

「さん?様の間違いでしょう、ロリコン野郎」

「スンマセンっしたマリア様」

「こんにちはマリアさん」


良い笑顔で現れたピンクの髪を風に靡かせた私と同じく牧場主のマリアさんだ。ちょっと毒舌だけどとっても優しい。あとすごい美人。見た目に惑わされて返り討ちにされたこの街以外の人達は少なくない。あ、シンドバッドさんも惑わされてた気がする。ジャーファルさんにボコボコにされてたけど。


「こんにちは、なまえちゃん。今日は作物の出荷かしら?」

「うん。ハヤブサに連れてきてもらって、色んな作物を出荷したところ。マリアさんは?」

「私はいつも通り乳製品だけよ。品質はなまえちゃんに劣っちゃうけれどね」

「そんな事はない。マリアさんの愛情篭ったものが品質が悪い筈がない。私はマリアさんが作った乳製品を毎日買ってる」

「…やだ、ほんとにこの子連れ去りたいわ」


苦笑するマリアさんに首を振って真剣にその綺麗な瞳を見つめながら本当の事を述べれば、頬に手を当ててうっとりとするような眼差しで見下ろされる。な、何か悪いことを言ってしまったのだろうか。不安になって銀時さんを見上げれば、口元を引くつかせていた。


「なまえちゃんったらほんと男前な。俺も危なかったわ」

「?何がだろうか?」


マリアさんによしよしと頭を撫でられながら、私は銀時さんの言葉に内心首を傾げる。あ、そう言えばまだ出荷箱にきゅうりを入れてなかった。



出荷箱にて、天パとドSを魅了する
(なまえちゃんて何であんなに可愛くて男前なのかしら)
(マリア様マリア様、俺の足踏んでるの気付いてる?ヒールがもろにくい込んでンだけど)
(あらごめんなさい、踏みやすそうな地面だったからつい)
(…なまえに対しての扱いの差が半端じゃねぇってすげぇ実感できるわ)