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パチンと一つだけ無くなっていたパズルのピースが嵌った感覚。同時に頭の中に蘇ったのは、飄々とした態度でへらりと笑う坂田銀時という男だった。坂田金時が意図して私の中から存在を摩り替えていた男の姿。平賀さんの言う通りだったと思いはしたものの、それならば坂田金時はどうなったのだろうかと考えを巡らせる。
「どっちにしろ坂田さんだったし、銀髪の方の坂田さんはその間店に来なかったからいいんじゃないかい?」
「…ママはあっさりし過ぎじゃないかしら」
「過ぎたこと考えても仕方ないよ。坂田さんも思い出したなら文句はないだろうさ」
「……それも、そう、ね…?」
「うじうじ悩むなんてらしくないね。ほら、行っといで」
「どちらかは分からないけど、男の情けない姿を見ろと?」
「馬鹿だね。惚れた女に会えない事程辛いことはないよ」
開店直後にお店から放り出され、話してくるまで帰って来なくていいなんて言われたら行くしかなかった。ママは少し強引過ぎると思う。良くも悪くも。
迎える準備をしていたというのに、結局自分から行かねばならないとは、世の中思い通りにいかない。人生は世知辛い。
と言ったものの、どこに行けば坂田さんがいるのか全く見当がつかない。とりあえずかぶき町のゲート付近へと足を伸ばしてみれば、見知った顔が複数。その他にも多くの人で溢れている。
「なんで埋まってるの坂田さん」
金髪が眩しい坂田さんが何故かアスファルトに肩まで埋まっている。どうやったらそんな事になるのか前後を見てないから全く分からない。というよりは分かりたくなかった。近付いて目の前にしゃがみこむと心底驚いたような顔をして、そうして困った様な泣きそうな笑顔を浮かべる。見たことない顔だなぁなんて思いつつ頬をつついてみた。本当に機械であることが信じられない、人の肌を触っているかのような触り心地だ。ひんやりと冷たいけれど。
「笑いに来たか?」
「どうして?」
「オリジナルに成り代わろうとして失敗した。挙句、惚れた女にもこんな見っともない姿を見られた。笑うしかねぇだろう」
「……聞こうと思ってたの」
「?」
自嘲するように目を伏せて笑う坂田さんを見て、坂田銀時を思い出した時から聞きたかった事を口にする。顔を上げる坂田さんの青い瞳は綺麗なもので、作った平賀さんは本当に凄い人なんじゃないだろうか。
「その惚れたって言うのは、貴方のモノじゃなかったの?」
「俺のモノだ。オリジナルからの感情であれど、それを受け入れ愛でたのは俺だ。だから、なまえに対するそれは本物だ」
述べられた言葉を頭の中で反芻する。嘘偽りのない言葉だったんだろう、それ程真っ直ぐに私を見て言ってくれた。埋まっていなければもっと良かっただろう。内心苦笑。
「そう。でもごめんなさい。それに応えてあげられない」
「だろうな。でも悪い。こんなイイ女、簡単に諦めてはやれない」
「……言うわね」
銀髪の方の坂田さんと違って、こちらの坂田さんは随分と直球な物言いをしてきて困る。いつもは私が振り回している側だというのに。振り回している自覚はあるから許して欲しい。自覚無しでやられるよりずっと楽でいいだろうし、ホステスをやってたらこうにもなってしまう。
「よお」
「ええ」
「久し振りだな」
「久し振りね」
金髪の方の坂田さんは平賀さんが引き取るらしい。任せてお店へと帰る途中、随分と懐かしい感じがする坂田さんと出会した。オウム返しの私に、坂田さんは少しだけ考え込むような複雑そうな顔つきでまじまじと見下ろしてくる。
「……何?」
「あー…、ちょっと抱きしめていい?」
「ごめんなさいね。お触り禁止なの」
「店じゃねーだろ」
腕を引かれ迎え入れるように一歩踏み出してきた坂田さんの白に包まれて、調子に乗るなとお腹の肉を摘む。それでも離れようとしない事にため息をついて、隠すように肩に顔を俯けている坂田さんの背中を叩いてやる。
「なぁに?」
「……」
「覚えてるわよ」
「…そーかよ」
「…銀時さん」
「なんっ」
「名前で呼べって、貴方が言ったんでしょう」
勢いよく顔を上げて顔を真っ赤にしている坂田さんの隙を見て離れる。引き留めようと伸ばされた手を払い、襟ぐりを掴み引き寄せた。目の前に迫る顔の距離は約15cm程だろうか。背の高い坂田さんが背を曲げて、赤い顔のまま目を見開いているから少しだけ笑ってしまう。
「貴方の銀も、赤も、白も、全部私の頭にも心にもあるわよ。それでも信じられないなら、貴方が望むまで名前を呼んであげましょうか?」
「……十分デス」
手を離してやれば、坂田さんは素早く両手で顔を隠して唸り声を上げた。指の隙間からこちらを窺う暗い赤がちらりと見える。いつもはもっと堂々としているのに、今更何が恥ずかしいのやら。
「なんつーか、やっぱなまえからの言葉って良いもんだなって思ってよ」
「馬鹿ね、リップサービスよ」
「……上げて落とすなまえちゃん流石。でもそこもイイ」
先程とは別の意味で項垂れた坂田さんに笑う。自分も随分と慣れてきていると考えながら、懲りずに伸びてくる手を叩き落とした。
2017/02/23
金魂篇 終