■ 診療所にて

足を怪我してしまった。いつも飛び降りて早道している高台から飛んだら昨日降った雨に地面がぬかるんでいたらしく思い切り滑ってしまった。誰にも見られていないから恥ずか死ぬ事はなかったけど、その為に足を擦り剥いてしまい血が止まらないのだ。流石にこの状態で街に行ったら笑われてしまう。それはダメだ、恥ずかしい。
自分でもどうすることもできずにしゃがみ込んで悩んでいれば少し遠くで悲鳴が聞こえた。


「なまえちゃん!」

「何があったんだ!」

「わぁっ」


前方から見える二人の綺麗な金髪に目を細めて感嘆の声を上げてしまった。風のように走ってきた二人を見上げてしまうとその長身に首を痛めてしまいそうだ。
私の目の前にしゃがみこんだ街のホテルでコックさんをしてるサンジくんと、そのホテルのボーイをしてるシーザーさん。うわイケメン、キラキラしてる。ポロッと口に出ていたらしいそれは二人が顔を俯け耳まで赤くした事で発覚した。やばい独り言聞かれた恥ずかしい。
顔をあげたサンジくんは少し頬に赤みが残ったまま心配そうな顔で私と血だらけの足を交互に見た。


「なまえちゃんこれどうしたの。誰かにやられた?動物…はなまえちゃんにみんな懐いてるし、」

「何があったのか詳しく教えてくれるかい?」

「いやこれはただ擦りむいただけだから!痛くないよ!全然!全く!」


まさか高台から飛び降りて擦りむいたなんて恥ずかしい事言えない!もちろん女の子に優しい二人がそんな言葉で納得する訳はなかったんだけど、とりあえず診療所に連れて行ってくださいとお願いした。瞬間に二人がメンチを切り合って俺が運ぶと言い争ってるんだけど。あれか、怪我してる子を運んで更に女子人気をアップさせようとする魂胆か。二人ともイケメンだから気にしなくてもいいと思う。
結局サンジくんに何故か横抱きにされて、シーザーさんが先に診療所に行って話しを通しておく事になった。シーザーさんのサンジくんを見る目がかなり怖かった。昔やんちゃしてたって聞いたけどそれがポロッと出てたと思う。
道中、怪我した足を気遣ってゆっくり歩いてくれるサンジくんに心底感謝した。実は結構痛かったんだ。


「今日はむやみやたらに動くな」

「なんと」


診療所で患部に傷薬を塗りこまれ包帯を巻かれた私は目の前で肩肘をついてこちらを見てくるロー先生に声をあげた。まだやっていない仕事が残っているのだ。動くなと言われても動かなければいけないのである。牧場主は多忙なのだ。


「でもでもロー先生、私は牧場主なんだ。作物に水をやるのがまだ残ってるし、野生の動物たちにご飯をあげてないし、みんなの依頼を見に行かないと。あと採掘作業も行ってない、それに、」

「ストップ、落ち着け」


ポスッとカルテらしきもので頭を軽く叩かれて制止の言葉に私の口も閉じる。私の熱意が伝わるように見つめていると次第にロー先生の目が忙しなく動いて、ぐっと口元が閉ざされた。さっきよりも血色が良くなってる気がするが気のせいか。


「……無理しないと約束するか?」

「する!」

「よし分かった。…おい、仗助はいるか?」

「はいはーい、ここにいるっすよ」


その言葉にすぐさま頷けば、何故かロー先生の助手である東方仗助くんがお呼ばれされた。仗助くんが隣の部屋から出て来てロー先生の言葉に返答を返して大きな欠伸を一つこぼす。そうしてバチリと目が合い私が軽く手を上げて挨拶すれば、噴火したかのように顔を赤くして目を見開いた。


「でええええ!?なまえさん!?ななな、何でここに!?」

「あれ、シーザーさんは何も言ってなかった?」

「俺が話を聞いたからな」

「ああ、成程。ちょっと足を擦りむいたんだ」

「えっ、なっ、大丈夫なんすか!?」


驚きの声を上げて近付いてくる仗助くんに、包帯が巻かれている方の足を心配そうに見られた。気恥ずかしいけど我慢だ。仗助くんに平気だと伝えてロー先生へと向き直れば、何故か不満そうな顔をするロー先生と目が合った。この数秒でどうしたというのだ。


「仗助、なまえを今日一日無茶しねぇように監視しろ」

「えっ、」

「マジっすか!」

「どうせ口約束なんてなまえが守るはずねぇからな、ちゃんと見て監視しとけ」


ロー先生の最後の言葉に心にグッサリと刀が刺さったけど、頼まれた仗助くんはひどく嬉しそうだ。もしや仗助くんはSっけがあったりするのか、お姉さん怖い。ニコニコと嬉しそうに笑う仗助くんを見てしまい、もう逃げ出す事を放棄した。
その日一日仗助くんの手を借りて過ごしたのだが、これは何と言うか頼りがいがあって物凄く助かった。「いつでも手伝いますよ!」と言われ、直ぐにでもと返しそうになって慌てて口の中で噛み殺した。流石にそこまで迷惑かけられないよ。



診療所にて、人の手を借りて生活
(なまえちゃんすげぇ軽かった。あといい匂いした)
(なまえさん超かわいかったっス〜!)
(サンジ、てめぇは後で裏来い。絶対締める)
(バラしてやる、来い仗助)