■ 金魂篇

「やっと見つけた」

「…どこかで会ったことある?」


お店に来た黒い着流しに金の刺繍をあしらった、坂田さんと色違いの同じ服を着た金髪の男に首を傾げる。お客様として来た人ならば覚えているのだが、明らかに見知らぬ男がさも当然というように私のことを知っているから戸惑いを覚えた。というより一度見たら忘れない端正な顔立ちだ。
店の子と旅行に行って一月いなかった間にできた新規のお客様だろうか。でもママからは何の話も聞いていない。


「あの、名前を聞いても?」

「ああ、坂田金時だ。覚えたか?」

「…名前も坂田さんと似てる人なのね」

「そうだな。なんせ兄弟といっても過言じゃねぇからな」

「兄弟、にしては似てない部分があるのね」

「ハハッ、頭か?」


坂田さんが銀髪の天然パーマに対して、兄弟だという坂田さんは金髪のストレートヘアだ。坂田さんが羨むストレートヘア。天然パーマは嫌いではないんだけれど、言うと調子に乗るから黙っている。調子に乗った坂田さんは面倒くさい。


「なまえにとって兄弟はどんな存在なんだ?」

「お客様」

「あー、そうじゃなくて」

「悪い女に憧れを抱く高校生男子みたいな」

「いきなり具体的になったな」


坂田さんは変わらず笑い、私もつられて笑う。初めて会ったにも関わらず、気負わずに話せるなんて相当慣れているに違いない。銀髪の方の坂田さんでもお店に来た時はガチガチに緊張していたというのに。兄弟でこうも違うとは、内心笑ってしまった。


「おや、今日もお熱いじゃないの二人共」

「だろう?だがなまえのガードが硬すぎてね。容易に落ちてくれねぇ。そこもイイけどな」

「……今日も?」


ママから掛かった声に眉を潜める。おかしい。私と坂田さんは初めて会った筈で、それを言うなら銀髪の方の坂田さんとであって、いやそもそも坂田さんとお熱い関係になった覚えなどない。聞き返そうとママを振り返れば大きな手が唐突に目の前を覆う。人の手にしては随分と冷えた温度だと思った。


「銀はもういらねぇだろ、なまえ」


頭の中を無理やりかき回されたような気持ちの悪さに頭を抑えて目を強く閉じた。ぐらぐらと立っているのか座っているのかも分からないほど頭の中が揺れる感覚に、傍にいるだろう坂田さんに手を伸ばす。お店の子たちの悲鳴が聞こえた。


「大丈夫、大丈夫。ちょっと酔いが回っただけだって。まあ落ち着けよ、お前ら」


私の手をしっかりと握り返しながら、ざわつく周囲に向けて声を掛ける坂田さんに安堵の息をつく。背中をゆるりと撫でられ、気持ち悪さを吐き出すように一度大きく息をついた。


「ったく、本当に女にも男にも敵が多すぎて困る」

「…こんな面倒な女を好きになる人の気が知れないわ」

「生憎、俺は抵抗されれば捩じ伏せたくなるし、強気な態度も燃えるだけだからな」

「仕方ない人ね」


ニィッと歯を見せ、目を細めて笑う坂田さんに呆れつつも笑みがこぼれる。ああ、そう言えば坂田さんとはこんな会話をよくしていた気がする。見知った金色が、銀色に見えたのは気のせいだろうか。


2016/12/24