■ 黒尾鉄朗生誕祭

「誕生日おめっとー」

「おいーっす、黒尾オメデトー」

「イエーイ!トサカっ!ふぃー!」

「おおう祝う気ねぇだろお前ら。あとトサカっつったの誰だ」


教室に来て早々そんな投げやりにも程がある言葉を貰った。何だこれ、祝われてんのに嬉しさが沸き上がらねぇ。部員でさえこんな感じではなかった。もっとちゃんとした…あれ、祝いの言葉もらってねぇわ。悲しい現実を思い出した。
これは大分主将としての威厳がなくなってきてんじゃねぇかと内心震えながら、席について思わずゲンドウポーズをとった。主将の威厳が関係あるのかは適当に言ったから深く考えないでほしい。夜久お前面白がるな。写メ撮るなやめろ。


「クロ、」

「研磨!」

「え、なにその勢い…きもい」

「え、呼んだだけ……」

「部室に忘れ物」


軽く凹む俺を気にもせずジャージを投げ渡した研磨は大分冷めてる。冷水のようだ。およよと大袈裟に悲しんで見せれば、研磨はそれはもう海よりも深いだろうため息をこぼして、迷惑そうな目をこちらに向けた。冷たい。


「なに?」

「幼馴染みの俺に対して言うことはないのか」

「……今日も寝癖が決まってるね?」

「違う!もってなんだ!もって!」


クロの髪が纏まってるとこなんて近年見たことないからね、等と言葉を返してきた研磨に黒尾さんもう立ち直れない気がする。
迷惑そうな研磨に意地でも祝ってもらおうと、教室の扉に肩をつけて言葉を待っていると、ふと研磨の顔つきが変わった。あれ、何コイツの顔、ゲームやってる時しか見たことない。そのあまりの変わりように若干引いたと同時に優しく肩を叩かれて振り返った。


「誕生日おめでとう黒尾くん」

「ここが楽園か」

「皆に言われてるんじゃないの?大袈裟だなぁ」


笑うみょうじさんに違うそうじゃないと言いたかったが、後ろから研磨が背中を抓ってきてそれどころじゃなかった。ちょ、研磨くん最近辛辣な上に物騒。


「いででででで」

「黒尾くん?大丈夫?」

「大丈夫だよなまえさん。クロはいつもこんな感じ」

「なわけねぇだいででででで」

「ね?」

「大丈夫そうには見えない……」


研磨が抓っている事に気付いて、研磨の手をサッと取り上げたみょうじさんホント天使。けどそれを逆手に取ってちゃっかり手を握るのはどうかと思う。そこは!誕生日の!俺に!譲れよ!


「手、繋ぐの好きだね研磨くん」

「温かいから」

「んん、ちょっと恥ずかしいなぁ」

「あー!研磨!コラ!やめなさい!一応!俺ルートだから!」

「ゲームなら俺の圧勝」


鼻で笑う研磨から無理矢理その手を離れさせて、俺と手を繋ぐ。うわ、小さい。赤ちゃんとかそんなんの類ではないけど、俺と比べてかなりの小ささ。思わず変に感動してしまって無意識のうちに強弱をつけていたらしい。気付いた時にはみょうじさんの顔は真っ赤だった。凄い…可愛いデス。


「黒尾くん、」

「……はい」

「誕生日でもしていい事と悪いことがあると思います…」

「……これはしていい事?」

「ばか」


破壊力のある物凄い罵倒もあったものだと思った。俺の片思い相手がこんなにも可愛い。研磨舌打ちやめろ。


2016/11/17
黒尾鉄朗Happy Birthday!