■ 大工屋にて

「きのこ栽培と養蜂をしようと思ってるんだけど、何が必要かな?」

「んー、なまえにはいっつも世話になってるから資金だけで大丈夫だぞ」

「いや、石材と木材はこの紙に書いてあるだけあるんだ。資金はもちろん払うよ」

「これだけあるなら後は組み立てるだけだな!私と長宗我部に任せておけ!あ、料金は桃井に渡してくれ!」


ニッと歯を見せて笑う七松君に礼を言ってさつきちゃんを探す。七松君が言うには長曾我部君と買い出しに行ってるらしいけど、貿易ステーションにでも行ってるのかな。あそこは掘り出し物が多いし私も良く利用している。売るのにも買うのにも。
ステーションまでの道のりを歩いていれば、向こうから見えた銀髪と桃色の髪に破顔する。どうやら場所は合っていたようだ。と、唐突にさつきちゃんがこちらにむかって走り出した。何だ何だ何があったんだ。長曾我部君にセクハラでもされたのか、何それけしからん街の警察官に逮捕してもらうぞ。


「なまえちゃん!」


どうやら私に向かって駆け出したらしい。何とも強烈なアタックに足元がふらつきながらもしっかりと抱きとめてやる。女の子一人を支えることが出来ないなんて事は牧場主の名が廃ってしまう!廃るのかは分かんないけど!


「こんにちはさつきちゃん、用事は済んだ?」

「こんにちはなまえちゃん!うん、もう全然平気!長曾我部くんに荷物持ってもらってるし!どこ行く?」

「店に帰るまでが仕事だろうが、何寄り道しようとしてんだ桃井」


キラキラと目を輝かせるさつきちゃんに自分の目が細まるのがわかる。何でこんなに興奮してるのかなさつきちゃんは。それから長曾我部君に持たせてる荷物がえげつないんだけど、量もそうだけど長曾我部君の身長を軽く超えてる木材三本、もう片方の手には山盛りのビニール袋。土かなにかだろうか。とにかく重たそう。


「長曾我部君もこんにちは。良ければそのビニール袋、店まで持つよ」

「おう、なまえ。ありがてぇけどこれは俺の仕事だからな。見た目ほど重くねぇから大丈夫だ」

「いや十分重そうだよ」

「あれ、お店には今は誰もいないはずじゃ…」

「うん?七松君が店番をしていたけど」


平気だと笑う長曾我部君には今度何か作って持っていこうと思う。確か海の食材の料理が好きじゃなかったっけ。とりあえずそこらへんもリサーチしとこう。
さつきちゃんが首を傾げているのに合わせて私も首を傾げて返答すれば、二人は揃って大きなため息をついた。


「小平太のやつ、分かってやがったな…」

「うーん、今日は山でランニングするって言ってたんだけどなぁ」


二人して苦虫を噛み潰したような顔をして唸っているけどどうしたのか。気分でも悪いのかな。
様子を伺っていれば、さつきちゃんが可愛らしく小さく微笑んだ。可愛いなぁ、私にはできないよそんな可愛い顔。


「行きながらなんの依頼か教えてもらってもいい?」

「全然構わないよ。お願いしてるのはこっちだからね」

「何言ってんだ。客の要望に応えるのが店の者の第一条件だろうが、加えて街の牧場主の頼みだぜ?聞かねぇ訳ねぇだろ」


アニキー!と叫びたくなったのは心に留めておこう。叫ぶのは心の中だけだ。きっと長曾我部君の両手が空いていたら頭を撫でて欲しいとお願いしていただろう。危ない危ない、そんなことは口が裂けても言えない。長曾我部君ならやってくれるだろうけど私が恥ずかしい。
依頼内容を簡単に説明しながら歩みを進めれば目的の場所はスグだ。扉を開けて店内へと入れば、そこには七松君が背中を向けて仁王立ちをしている姿があった。


「できたぞ!」


額の汗を拭いながら振り返った七松君の目の前には、立派な木箱が6個ときのこ栽培に適した丸太が3本。どうやら七松君がもう既に依頼を完了してくれたようだった。



大工屋にて、仕事の早さに感嘆
(なまえがくる日は大抵週末だからな!覚えた!)
(ぐぬぬ、七松くんばっかりにイイ格好させてやらないんだから!)
(なまえとはよく釣りしてっから思う所はそんなにねぇな)
((!?))