■ イヤミの話

ミーがそれを見たのはもう数年前のことザンス。今でこそとんでもないモンスターになった六つ子が、その日ばかりは本当に少しでも声をかければ殺されるんじゃないかという殺気を纏っていたザンス。正直な話、殺気とか殺意とか全く感じたこともなかったミーが言うのも何ザンスが、アレは異常な程に重苦しい雰囲気だったザンス。


「イヤミ、ここら辺で俺らに手をだそうとしてる奴ら知ってる?」


普段自分から話しかけに来ないネガティブ思考の何とか松が、ミーにそう聞いてきたザンス。人を殺しに行くと言うような目で見られたら、このミーも正直に口を開くしかなかったザンス!
その日はチラホラとそう言った輩にすれ違ったから、それについて教えたザンス。


「人数は5、6人てとこザンスね」

「……そ、」


人数を教えて容姿を思い出そうと頭をひねる。そうしてパチンと手を叩けば、片眉を上げて首を傾げる何とか松。肩を竦めながら思い出したのは、六つ子の唯一の姉である松野なまえだったザンス。


「なまえの名前を出したのもそこの連中ザンス」

「……ああ、そう。そっか。うん、…そうかぁ」


ニタリと歪んだ口角はマスクで半分隠れて見えはしないけど、その目が何とか松の心情を物語っていて内心深くため息をつく。
サッサと背中を向けて去っていく何とか松を眺めてミーもその場を離れたザンス。


「まったく、命知らずな奴らザンスね〜」


去って行った何とか松に向けた言葉ではなく、かといって六つ子の姉のなまえに言った訳では無い。もちろん彼らの大事な人を巻き込んだであろう愚者達に向けていった言葉で、思わず喉の奥で笑ってしまったザンス!


「チミの所の六つ子は過保護過ぎるザンス。いっその事一人暮らしでも始めたらどうザンスか?」

「あー…、別にそれもいいんだけどねぇ」


困ったふうに笑うなまえを見ながらワインを一口。何処産とかフランス産に決まってるザンス!
言いにくそうに視線を逸らすなまえに目を細めて見せれば、ため息をついた後ようやく口を開いたザンス。


「一度家を出たことがあるんだけど」

「そうだったザンスか。あの六つ子が泣き喚いたのが容易に想像できるザンス」

「母さんからメールが入ってて『ニート達が動かなくなりましたがお元気ですか?』とかって言う前置きが書いてあって」

「…うん、まあ予想内ザンスね」

「日が立つことに凄くてさ。『ニート達が街行く社会人に呪詛を吐き散らしていますがお元気ですか?』って」

「……ちょっと理解しかねるザンス。説明してちょーよ」

「私が働くから家から出ていく=社会人を潰していけば会社は基本的に潰れるから私が家に帰ってくる。姉離れっていうイベントが存在しないのかな…」

「六つ子の考え方もおかしいザンスが、なまえの考え方もおかしいザンス!」


シェーッ!といつも通りのポージングで声を上げればなまえは小さく笑う。
まったくこの姉弟は平行線だと思うのだ。どうしたって『弟』としか見ていないなまえと、実の姉を『女』としか見ていない六つ子。暫く考えて放り投げた。ミーには関係の無い事ザンス!


「せいぜい身内に甘過ぎない事ザンスね!」

「甘やかすのは仕方ないけどなぁ」


困った風に笑うなまえはもうどうしようもないザンスね。とにかくミーは壁の向こうで歯軋りしているだろう六つ子から一刻も早く逃げる事に専念するザンス!別にお前達六つ子からなまえをとったりだなんてそんな命知らずな事するわけないザンス!


2016/04/04
誰が誰でも同じザンス!