■ 六男である僕の話

くあっと大口を開けて欠伸を一つこぼした。今日は一日家でゆっくり寛いでいようと、居間で携帯を触りながら寝転んで聞こえたのは僕を呼んだ声。


「トド松、ここのお店行かない?」

「OK。待ってて、準備してくる!」


ぐっと親指を立ててチラシ片手にこちらを見下ろしてくるなまえ姉さんに、僕は自分でも分かるほど緩みきったニヤけ面を晒した。すぐ様部屋へと戻って服を漁り、一番お洒落だろう服を取り出して。はたと気付く。


「デートじゃん!」

「な訳ねーだろ!」


スッパァンと子気味いい音が響いて痛みを訴えた頭を抑えた。文句を言いながら振り返れば、嫉妬をありありと込めた目でこちらを見下ろす五人のクソ兄貴達。僕の頭を叩いたのはチョロ松兄さんらしい。ちくしょう、病院で先生に取り上げられるのがちょっと早かっただけで調子乗りやがって!


「ちょっと退いてくれない?僕これから姉さんとデートだからさ。クソ兄さん達は家でゆっくり寛いでるといいよ」

「だからデートじゃねぇっての!トド松てめ、姉さんに何かしただろ!」

「はぁ?してないよ。するわけない!なまえ姉さんは自ら僕を選んでくれたの!」

「ブラザー、姉さんに誘われて浮かれるのは分かるがこればっかりは許せん。何故お前なんだ!」

「もー、兄弟一お洒落で女の子の気持ちもよく分かって気配りだって出来ちゃう僕を、クズを体に詰め込んだ兄さん達と比べないでくれる?」


ギャーギャーと五月蝿い兄さん達にうんざりしながら、店員さんがお勧めしてくれた僕もお気に入りの服を着る。鞄の中に必要なものを適当に詰めて部屋を出る間際、兄さん達を振り返って睨みをきかせた。


「ついてきたら兄さん達の恥ずかしい秘密とか全部ばらすからね」


携帯片手にそう言ってやれば青ざめる五つの同じ顔。こういう時に携帯はとっても便利だ。僕の武器の一つだよ。
サッサとその場を後にして姉さんが待っているだろう玄関へと向かった。「遅いよぉ」と笑って手を振るなまえ姉さんホント可愛い。謝りながら靴を履いて外へと出た。


「え、なにこれ凄いっ!」

「職場の人に教えてもらったんだ。チラシもその時にもらってね」


なまえ姉さんが教えてくれた店は、人は少ないものの僕好みの衣服がずらりと並べられた服屋だった。シャツやズボンは勿論、小物品まで様々な種類のものが置いてあってテンションは上がる。


「トド松、こういうの好きかなって思って」

「好き!もうなまえ姉さんホント大好き!」

「はは、ありがとう。私も好きだよー」


気に入った服や姉さんが似合うと言ってくれた服は全て購入する事にした。正直財布に痛い。値段を計算しながらカゴの中に服をいれていけば、ふと姉さんが首を傾げて言った。


「大丈夫だよ、トド松。私が買ってあげるよ」

「え、ちょ、何言ってんの!店教えてもらっただけでも有難いのに、それはちょっと…」

「まーまー、気にしない気にしない。姉さんがどんだけ稼いでると思ってんの」

「……えっと、じゃあ小物は僕が出すから、とりあえずこの服は買ってくれる?」


恐らく五着以上は入ってるだろう服のカゴを見せれば任せなさいと親指を立てるなまえ姉さん。いや待って、ホントカッコイイんだけど。姉さんマジで僕のこと養って欲しい。もう半分ほど養われてるようなもんだけど。
真新しい紙袋に詰められた僕のためになまえ姉さんが買ってくれた服。十四松兄さんじゃないけど家宝にしたいよね。着るけど、大切に着るけど。


「そーだなまえ姉さん、この前言ったカフェの話覚えてる?」

「うん。新しく出来たカフェで、スイーツが美味しいって評判の」

「そう!お礼にそこで奢らせてくれない?いや、奢らせてください」

「おお、低姿勢なお願いだ」


じゃあお願いしようかなと笑うなまえ姉さんに、僕も笑みを浮かべてその手をとった。小さくて柔らかい僕の手とは比べ物にならないほど気持ちいい手だ。この手のひらに僕ら六つ子は守られて愛されているんだと思うと涙が出そうだ。出ないけど。
兄さん達には違うと言われたけど、こんなのもう確実にデートみたいなものじゃん!周りから見たら恋人に見られてないかな。外堀埋める感じとかやっぱりまだ駄目だよね。上五人を本気で怒らせると僕に勝ち目は…まあ負けるつもりは無いし、そりゃちょっとヤンチャだってしてたし。結論、死ぬ気で勝つ。


「わ、このカフェラテ可愛い!兎だ!」

「僕のは犬だよ。ね、可愛いでしょ」

「スイーツ!スイーツは何があるのかな?」

「姉さん落ち着いて、スイーツは逃げないから」


新しく出来た場所だから少し並んだけど今日はラッキーだ。普段よりまだ人が少ないし。サービスで始めに出てくるカフェラテの模様に、目を輝かせるなまえ姉さんがホント可愛いし、僕の写真フォルダがどんどんと姉さんで埋まっていく。いつから撮ってたとか愚問でしょ。服屋あたりからだよ、興味深げに服を見てる姉さんホント好き。


「あー、美味しい…。他の人にも教えたいよここの店」

「そうだねぇ。友達連れて来たらたぶん喜んでくれるよ」

「ありがとう、トド松。教えてくれて」

「いやいや、こっちもいろいろ連れてってもらったし。ね、お相子だよ」


嬉しそうに笑うなまえ姉さんに僕も嬉しくなった。二人で写真を撮ったりして、もう最高。今日はいい記念になると思う。何の記念かなんて決まってる。姉さんとの初デートだよ。言わせんな恥ずかしい。


2016/03/25
今日は甘えてみてもいい?