■ 長姉である私の話

私の話をする前に、先ずは皆様がご存知であろう世にも不思議な六つ子の話をしよう。私が彼らのことを一言で表すのならば『弟』その一言に尽きる。…のだけれど、まあ細かくしっかりと所々は大雑把に説明していきたいと思う。

松野家長男、松野おそ松。夢はビッグでカリスマ、レジェンド、人間国宝。働きもせず、また何かしらの行動も起こしていないのにどうやってビッグになるつもりなのか、姉さんはそこを追求したい。
欲に忠実で素直、さらには単純バカ。小学生の頃をそのまま大人にしたような男である。他の弟と同い年ながらもしっかりとお兄ちゃんはしているらしく、たまに甘えてくる時はちゃんと構ってあげないと後が面倒なのだ。放っておくと機嫌が頗る悪くなり物にあたるは弟にあたるは、最悪外に喧嘩を吹っ掛けに行ったりと大変な事になる。そういった時はおそ松の機嫌がよくなるまで抱きしめてくだらない話をしてやったりするのだ。そうすればいつも通りのおそ松に戻るのだから不思議なものである。

松野家次男、松野カラ松。尊敬している人はオザキさん。イタい中二病で、ファッションに気を使っているもののセンスが壊滅的だと思う。本人が良いのならそれでいいとは思うけれど、ちゃんとした格好をすれば姉さんは嬉しい。本当に。
自分の世界に浸りすぎて会話がちゃんと成立しない事もしばしば。おそ松に対しては少し厳しめな所はあるけれど、兄弟には優しい面がよく見られる。メンタル面は弱くガラスハートという言葉がピッタリで、泣きつく相手は専ら私である。ちゃんと話し相手になって頭を撫でて「大丈夫」と魔法の言葉を告げれば緩んだ笑顔で甘えてくるのだ。そうしていつも通りのカラ松に戻るのだ。

松野家三男、松野チョロ松。兄弟の中では一番まともで苦労人だろうと思う。ただ一人就職していない事に悩みを抱えつつも未だ無職である。一度履歴書を見せてもらったのだが、少し自分を過信し過ぎているところがあると姉さんは思うよ。
自称常識人とだけあるべきか、兄弟の勢いには反論して意見を出している。のだけれど、やっぱり流されやすい所があるのか結局は一緒になって悪ノリして痛い目を見ることがあったりなかったり。悩み事は一人で抱えてサッと解決しているチョロ松だから、私としてはもう少し頼るという事を覚えて欲しい所。あまりにも大きな悩み事は私に一番に相談しにくるけど、それはやはり上二人と同じで甘やかして欲しい合図なので見逃せない。

松野家四男、松野一松。徹底的に斜に構えた態度とかなりの皮肉屋。であるとチョロ松が言っていたのだが、そう思ったことがない。ただ猫が好きな少し素直になれないそんな男だと姉さんは思うのだ。
確かに薄暗い雰囲気を纏ってはいるものの、根は兄弟と離れたくない寂しがり屋さんだ。ただ何処からか加虐嗜好と被虐嗜好を拾ってきてしまい、それが発揮されると少し距離を置きたくなる時はある。こうした性格だからか、人一倍寂しがり屋な上にそれを素直に吐露できないため、そうした時はよく背中に張り付いて離れない。一松の気が済むまで背中を貸して、たまに頭を押し付けてくるから撫でて落ち着かせるのだ。

松野家五男、松野十四松。とにかく明るく、元気で、行動力のある男。ピュアで天然なまま大人になった結果、奇行が目立つようになった。溝で泳ぐのは本当にやめて欲しい。変な病気にかからないかと姉さんは心配で死ぬ。
理解不能なぶっ飛んだ行動は多いけれど、しっかりと考えて行動を起こす事もあるためどこから本気かがいまいち分からない。心優しく兄弟思いな所は見ていて微笑ましいものがあり、私に対してもよく似合うからという理由で花を持ってきてくれたりする。とにかく一直線な十四松が壁にぶち当たった時は、泣いて助けを求めてくる。落ち着かせるように抱きしめて背中を優しく叩き、その壁を超えさせてやるのが私の役目でもあるのだ。

松野家六男、松野トド松。兄弟の中で一番コミュ力が高い、世渡り上手な男だと思う。お洒落によく気を使い女子力も高め、恋人ができてもおかしくはないと思うけれど話は聞いた事がない。合コンしてるのに成功してないとは、それでも姉さんは信じてる。いつかできるだろうと。
多趣味なところは知っているけど、自分の話は兄弟にはしていないらしい。私にはよく話してくれるから驚きだった。兄に対しての毒舌は半端なものではないけれど、ちゃんと考えてはいるらしく優しい面もあるのだ。おそ松に次いで素直な分、甘えにくることが多い。大抵は膝枕をしたり借りてきた映画を見たりとそんなものだけれど、機嫌が悪い時は私のお腹に顔を埋めて暫くじっとしている。頭を撫でて待っていたらすぐに戻るけれど。

さて、ここまで話してついてきてくれた人はいるのだろうか?需要の無い話な分、スクロール又は一つ前の一覧に戻ってしまう人は多いだろう。メタい。確かにこれでは、ただ私が弟の簡単なプロフィールを述べただけなのだが、実はこれにはまだ付け加えねばならない項目、文、何でもいいがそんな一言があるのだ。


「別に俺なまえ姉さんがいれば後はどうだっていいし」

「フッ…my sisterがいる所に俺あり、だ。運命の歯車はもう回っているんだぜ、なまえ姉さん」

「僕が自立するならなまえ姉さんの手は絶対必要だから」

「なまえ姉さんは僕を放って出ていけるの?」

「なまえ姉さんはあったかくて、誰よりも僕を優しく包んでくれる人!」

「なまえ姉さん、新しくできたカフェ一緒に行かない?そこのスイーツが最高なんだって!」


世にも不思議な六つ子は、揃いも揃ってどうしよもないほどのシスターコンプレックスなのである。そうしてそれに負けず劣らずもう一人。


「なまえさん、今度私と駅前にあるケーキ屋さんに行きません?新作のケーキが絶品らしいんです!」


弱井トト子ちゃん。六つ子の弟達が想いを寄せる人でありながら、弟達には見向きもせず私に猛烈なアピールをしてくる。可愛らしい女の子ではあるのだけれど、何分どちらも同性なのだ。わかってほしい、可愛いけれど可愛さだけではこの世の中は付き合えないのだ。あと、私の価値観とかその他諸々があるので無理である。


「ちょっとちょっと、トト子ちゃん!ダメだって、なまえ姉さんはダメ。いくらトト子ちゃんでもなまえ姉さんだけはあげない」

「あら、おそ松くんの許可なんていらないでしょ?私はなまえさんの返事が聞きたいの。おそ松くんはどこかのツインテール美少女と遊んでればいいじゃない」

「なまえ姉さんの前でその話は出しちゃダメだろ!?やめて!俺の好感度ダダ下がり!」


トト子ちゃんとおそ松(その後に残りの五人)が対峙しているけれど、有利なのはトト子ちゃんらしい。流石、六つ子を容易く手玉にとってしまうだけある。というかおそ松はいつツインテール美少女と親しくしていたのか、そこの部分を詳しく知りたい。弟の恋愛事情は少なからず興味がある。顔を青くさせた他の五人も身に覚えがありそうだ。


「おそ松、」

「!、なになまえ姉さん」


声をかければピタリと口論は止まり、ふにゃりと気の抜けたような笑みを浮かべてこちらを見るおそ松。トト子ちゃんは納得がいかないというような、不満そうな顔でこちらを見てきて苦笑してしまう。一先ず可愛い顔が台無しだよと頭を撫でて、ハッとしてすぐに可愛らしい笑みを浮かべるトト子ちゃんを確認してから、おそ松へと視線を戻す。正しくは、私の弟達へとである。


「そのツインテール美少女のこと、後でちゃんと聞かせてね」

「それに、金髪美女もいたよね。カラ松くん」

「その話も詳しく聞かせてね」


トト子ちゃんの言葉に内心驚きながらも笑ってそう言えば六人はビシリとその場で固まって、すぐに悲鳴のような耳をつんざくような絶叫を上げた。姉さんに恋愛の話をされるのはそんなに嫌だったのか。


2016/03/22
姉離れの時期はいつだ。