■ 早朝にて

太陽が山の間から顔を出し始めた頃に私の起床時間はやってくる。正直な所寝ていたいのだがそうは行かず、だらけそうになる体を叱咤して顔を洗って目覚めさせる。手早く作ったフレンチトーストでお腹を軽く満たして作業着に着替え、ベッドサイドに置いてある四次元ポケットだと噂されるショルダーバッグを肩にかけて外へと出た。
山を少し登ったところにあるこの土地の空気は都会では滅多にない新鮮さと気持ち良さがある。私はここが大好きだ。深呼吸を何度かしてから牛小屋と鶏小屋へと向かい、一匹一匹の健康チェックを行ってから外に出していく。勿論ブラッシングも忘れない。


「今日は出来のいい牛乳と卵がいっぱいだ」


瓶詰めされた牛乳と割れないようにパック詰めした卵を見て言葉をこぼす。ふむ、これならいい値段で売れそうだ。
私がそれを軽く掲げながら見ているとパタパタと牧場の外から聞こえてくる足音。この時間帯なら手紙の配達だろうか。毎日思うが手紙なら取りに行くからこんなに大変な山を毎日走らなくていいのに。配達員にそう言ったら何故か泣きそうな顔をされた。そんなこと言わないでくれと懇願されてはもう何も言えなかった。


「おはよう、火神くん。ご苦労様、ウチで何か飲んでいく?」

「はよ、なまえ。有難いんだけどまだ配達が残っててさ、遅れたらまつさんに何言われるか分かんねぇから」

「彼女は厳しいからなぁ。そうだ、まつさんにこの卵を渡しておいて欲しいんだ。先日野菜をもらったから、そのお礼に」

「おお、任せろ!」


新緑のバンダナを頭に巻いたまつさんの輝かしい笑顔を思い出しながらパックを手渡せば、火神くんも歯を見せて頷いて見せた。
火神くんは手紙を三通ほど取り出して私に渡すとじゃあ街でな!と元気よく声を出してくれた。私は慌ててその背中を呼び止めて走り寄ってから一つの紙袋を渡した。


「火神くんが好物だと聞いてチーズバーガーを作ってみたんだ。味の方は自信がないから、あんまり期待しないでね」

「ま、マジかっ!なまえの手作り!?マジでか!」

「う、うん、マジだよ。その、いらなかったら捨ててくれて構わないから」

「いやっ!大事に食べる、サンキューな!」


きょとんとした顔から一気にパァっと表情が明るくなった火神くんは手をブンブン振って走り去って行った。そんなにチーズバーガーが嬉しかったのか。作ったかいがあったというもので、あんなに喜んでくれるならもっと料理について勉強しようと思う。
さて、作物の水やりがまだ終わっていない。お昼までに終わらせて今日は何の依頼があるか掲示板を見に行かないと。


早朝にて、郵便配達員と会話
(おっ、おかえ…?それ何さ?)
(なまえからもらった!)
(大我ばっかズリィ!まつさん、明日は俺が行くさ!)
(ならばラビ君は寝坊を無くしてもらわねばなりませんね)