■ 彼女の美しさを一番知ってるのは僕だ

放課後は文化部、運動部問わず、各々の部活動が活発的に働く時間帯である。様々な部活動が活動している中、体育館ではバレー部である俺達の音で溢れかえっていた。
リエーフに熱く厳しく指導する夜久の姿に苦笑しながら、五月蝿い山本に喝を飛ばして後輩指導に当たる。動きは初めよりも随分とよくなった。我ながら自分の後輩指導術は完璧であるとドヤ顔を決めれば研磨からキモイというお言葉を頂いた。最近の幼馴染みは辛辣になった気がする。


「あれ、みょうじさん?」

「……夜久くん」


逃げ出そうとするリエーフの襟首を掴む夜久の言葉に、ひょっこりと体育館に顔だけを出したみょうじさんは困ったように微笑む。ガチッと固まる俺の心情など露も知らず、夜久がどうしたのかと問いかけた時だった。


「なまえさん、」

「あ、いた。研磨くん」


俺の背後から飛び出した幼馴染みは、普段滅多に見ない姿でみょうじさんに走り寄った。俺だけでなく全員が目を見開き、唖然と口を開いた。バレー部全員の結束力が伺われた瞬間だった。


「どうかした?」

「うん。先生に頼まれて、プリントを預かったんだけど。今大丈夫かな?」

「平気。鞄に入れるぐらい、クロは許してくれる」

「クロ?」

「前に話した、俺の幼馴染み」


色々とちょっと待ってくれと言葉をかけたかった。先ずいつ何処で知り合ったんだとか、何で俺より親しげなんだとか、いつもより表情柔らかくね?とかエトセトラ…。前に話したってことは結構な頻度で話してるってことですかねぇ?聞いてねーぞ研磨ァ!


「あれ。あれがクロ」

「ぞんざいに扱いすぎだよ研磨くん。……え、黒尾くん?」

「…あー、そう。俺が研磨の幼馴染み」


瞳を丸くしてこちらを見るみょうじさんに、何とも言えない顔で軽く手を振る。さっさと練習しろと声をかければ、静かだった体育館がスグに活気づく。…色んな意味で。
二人の近くまで来て、そのプリン頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。酷く鬱陶しがられたが止めない。みょうじさんと既知の間柄であると知らせなかった罰である。


「二人は?どんな関係?」

「恋人」

「ファッ!?」

「ちちちち、違うよ!研磨くん!?」

「うん、違う。驚きすぎだよなまえさん。ていうか、何でクロまで驚いてるの」


みょうじさんの手をそれとなく握って薄く笑う研磨に、驚きすぎて変な声が出た。冗談でよかった。本気で。幼馴染みと好きな人が被るとか有り得ねぇだろ。いや、譲る気はもちろん無いけど。
真っ赤な顔で研磨に怒るみょうじさんは可愛い。…ヤバイなこれ。フィルター掛かってんのかなコレ。でも可愛い。


「その、学校に暫く住み着いてた白猫知ってる?」

「噂は聞いたことある。どっかの教室に入り込んだりとか、職員室荒らしまくったとか」

「昼休みにその白猫と一緒になって戯れてたなまえさんを見つけて知り合った」

「あれ、お前自分から声かけたのか?」

「癒されたから写真撮ったら見つかって必死に消してくれってお願いされた」

「研磨くーん?お前ちょっとキャラ可笑しくなってねぇ?」


おかしい。俺の幼馴染みはかなりの人見知りだったはずだ。上下関係が嫌いだから敬語じゃないのはまだ分かるにしても、些か積極的過ぎではないだろうか。幼馴染みとしては喜ぶべきなのだろうが、何分相手が相手なので複雑な気持ちである。写真は後で貰おうと思う。
とにかく仲がいいのは分かった。握った手を離さない程度に仲がいいのは分かった。そろそろ離してもいいんじゃないですかねぇ?


「…クロ、俺も譲る気はないから」

「……は?」

「顔、見ればわかるよ」


薄く笑みを浮かべた研磨に思わず顔を手で覆う。まさかこんな所で伏兵が現れるとは思わなかった。
とりあえず訳が分からず俺と研磨を交互に見るみょうじさんに癒されながら未だに手を繋いでいる研磨の手を叩き落とした。


2015/10/25