■ 訪問販売にて

自分の牧場で新しく改築したまっさらな土地を見て自然と頬が緩む。ニヤニヤとした笑みは街で見せれたものじゃない。以前政宗さんに見られたけど、忘れてくれていると信じてる。
山からやってきたであろうたぬきやキツネの姿を見かけて、急いで隅の方に餌を置いた。今から開墾するから、怪我しないようにとチラチラと確認しながらクワを手にする。
街の牧場主と言われているだけあって、開墾はお手の物だ。ここに来た当初はかなりのへっぴり腰だったけど今では時間も大してかからず出来る程だ。こんなにスラスラと出来るとテンションが上がる。
さて、後は種を撒くだけだ。カバンの中から種をだそうとしてハタと気付く。そう言えば昨日、新しく買った種を道具箱の中で整理したのだった。当然カバンの中に入ってる訳がなく、私は急いで自宅へと戻る。


「あ、そうだ。この種も…、いやでもそんなに場所あったかな?うーん、とりあえずカバンの中に入れといて……」


道具箱の中にあるいくつもある種を厳選しながら取り出していく。もしも場所がなかったら陣取り畑に植えに行こう。時間はまだまだあるはずだ。
カバンの中に移し入れた種を確認しながら扉を開くと、そこには灰色の長い髪と青い目、そして隈取りのような化粧をした男の人が不自然に片腕を顔の前まで上げたままの状態でこちらを見ていた。


「おや、お出かけですか?なまえさん」

「薬売りさんだ」


おそらく扉をノックしようとしていた腕を下ろして、柔らかく微笑む薬売りさんに私のテンションは上がる。この人はなんといっても植物によく効く肥料を提供してくれるのだ。初めてあった時は何の宗教に誘われるのかと思ったが今ではすっかり顔馴染みである。


「今から新しい種を植えに行こうとしてたんだ」

「そうですか。それはちょうど良かった」


薬売りさんは背負っていた大きな箱を降ろして、棚の中から一つの細長い瓶を取り出した。中身は薄い青色で、とても綺麗な色をしている。


「薬売りさんみたいな綺麗な青色だ」

「ふふ、ありがとうございます」


わあ、声に出してた。でも薬売りさんは怒ってないみたいだ。口許を隠して綺麗に笑う薬売りさんに思わず目を細めた。カッコイイだけじゃなくて綺麗だもんなぁ。
いつも思うが街の住人達は本当にカッコイイ人や美人な人や可愛い人が多すぎると思う。笑顔が輝いて見えて「うお、まぶしっ」なんてもう何十回言ったんだろう。


「それでは、こちらが今回の商品です」

「うん、どんな効果があるんだ?」

「成長が早くなる、品質が良くなる、品質が良好のまま継続。でしたかね」

「買った」


三本指を立てて説明してくれる薬売りさんに私は即決した。そんなの買うに決まってるだろ!
薬売りさんは「まだ試作段階ですがね」とクスクス笑う。そんな様子の薬売りさんに私は首を傾げた。


「薬売りさんが作ってくれた肥料が失敗するなんて考えられないし、もし失敗しても、薬売りさんはこれを機にもう一度作り直すことが出来るじゃないか」

「……まったく、アナタという人は」


少しだけ視線を逸らされて、内心何か悪いことでも言っただろうかと悩む。考えても頭の出来がよろしくない私には全く分からなかったけど。
薬売りさんは「今回はお代は結構です」と言ったけれど、それを由としない私が粘る。半ば無理やりに近い形で薬売りさんに押されて受け取ってしまった。価値のある物を贈られて、それに値するものを払わないなんてと戸惑いを隠せずにいたら薬売りさんの姿はどこかに消えていた。


「ああっ、お代……!」


思わず叫んでしまった私の足元で、擦り寄ってきていたむつ丸ともち丸は不思議そうな顔で私を見上げていた。二匹ともよしよしと撫でてやってから、受け取った肥料とカバンを交互に見やる。仕方ない。薬売りさんから貰ったこの肥料は全力で新しく撒く種に使わせてもらおう。
私は意外と図太い神経をしているのかもしれない。でも今度薬売りさんが来た時は食事でも御馳走しよう。
決意を新たに、私は耕した畝に種を撒いた。



訪問販売にて、肥料を手に入れる
(…さて、次の薬を考えよう)