■ バーにて
グラスに注がれた薄いピンク色のドリンクをまじまじと見下ろす。な、なんという事だ。私が育てたさくらんぼがこんなにも美味しそうなお酒に変わってしまった。まあ、洋酒にしたのは私だけども。しっかり工房を使って作らせていただきました。
「なまえン所の酒とレモンジュース、その他諸々を組み合わせたチェリーブロッサムだな」
「チェリー、ブロッサム…。流石はランサーだ、こんなに美味しそうなお酒は初めて見た」
「褒めてもそれしか出せねぇぞ」
カウンターに腕を乗せてこちらを嬉しそうに見てくる青い髪が特徴的なランサーに首を振る。それしか、だなんてとんでもない。本当にこんなにオシャレなお酒初めて見た。というよりもお酒に詳しくないから仕方ないけれど…。
「一応飲みやすくしといたけど、無理はすんなよ?てかなまえ、年齢は大丈夫なのか?」
「これでも成人済みなんだけどな」
「そうか。なら問題ねーな」
恐る恐る口を付けて少しだけ喉を通す。ピシャーンと私の背後に雷が落ちた。
「ランサー、これは実にいいお酒だ!」
「そっか、気に入ってもらえてよかったわ」
「そこの女誑し、なまえちゃんに変な目向けんなよ!」
ランサーの笑顔につられて笑みを深くすれば、少し後ろから聞こえた声に振り返る。そこには僅かに頬を紅潮させた虎徹さんがビシッとランサーに指さしている姿があり、その隣ではヘラッと笑うジョセフさんの姿があった。
「お前は次に『珍しい組み合わせだなぁ』と言う!」
「珍しい組み合わせだなぁ……ハッ!」
「イヒヒッ!たまたま相席になったのよん」
虎徹さんが酔った勢いでランサーに絡み始めたのを見ながらジョセフさんの方に避難すれば、お得意の決めゼリフに圧倒されてしまった。流石だ。カッコイイな、ジョセフさん。
「なまえちゃんがお前みたいな女誑しを相手にすると思ったら大間違いだぞバカヤロー!」
「へぇへぇ、分かったから落ち着けって。本気なら問題ねぇんだろうが」
「あぁん!?んなもん俺やバニーが許すわけねーだろうが!あとライアンも!」
「どうすりゃいいってんだよ…」
虎徹さん、大声で騒ぎまくるのもいいけれど出来れば少し声を小さくした方が…、ランサーも変な事言って周りに誤解を生むような発言は控えたほうがいいと思う。相手が私だなんてそんなの釣り合わなさすぎにも程がある。絶対ランサーのファンに殺されるよ。女の子の恨みは怖いんだからな!
一人自分の考えに震えていれば、ジョセフさんにやんわりと頭を撫でられた。どうしたのだと顔を向ければヘラリといつも通りの笑顔がそこにある。
「ま、嫁入り先がなかったら俺がちゃあんと貰ってあげるからねん」
「……ああ、よろしく頼む」
恐らくジョセフさんも酔っ払っているのだろう。私も笑いながらそのノリに乗って頷けば、店中からジョセフさんに対して暴言やら罵倒やらが飛んでくる。一体何があった。
おろおろしながらもジョセフさんを庇おうとした瞬間、勢いよく腕を引かれて力強く抱きしめられた。おおっふ、この豊満なお胸は…。
「ジョセフさん、いくらアンタでもなまえはやらないからねぇ!なまえも、簡単に頷かないの!」
「ナミ…。いやでも、あのノリだったら頷くのが普通なんじゃないのか?」
「ああもう!純粋なこの子の気持ちを利用するアンタらホント信じらんない!!」
ナミに頭を撫でられながらぎゅうぎゅう抱きしめられる。正直苦しい上に視線が痛い。大半はジョセフさんを罵倒する人たちばっかだけど(そのまた半分くらいはランサーと虎徹さんの喧嘩の観衆)、残りの人たちの視線が突き刺さってくる。違うんだみんな、ナミのお胸にダイブしてる私は罪深いんだろうけど何ていうか力が強過ぎて離れられない。いやこれホントに。
「なまえが本気で好きになった人以外認めないんだから!」
「落ち着いて、ナミ。私はまだその、お付き合いとか考えてないし…、今はまだ動物達の世話で手一杯だから」
「そう…、そうよね!まだなまえには必要ないわよね!そこの青い犬!追加でお酒持ってきなさい!」
「犬言うな!!!」
ナミの声にぐりんと首をこちらに向けたランサーは怒鳴りながらも虎徹さんを置いてお酒を持ってきた。放っておかれた虎徹さんは、カウンターでぐったりと伸びている様で、ジョセフさんは高笑いしながら他のお客さんと飲み比べをしている様子だった。
うん、みんなが楽しそうで何よりだ。
バーにて、陽気な人物達と飲む
(すげぇ、昨日の売上が跳ね上がってやがる。なまえ効果ヤベェな)
(あ゙ー…、頭痛ェ。二日酔いだ…、バニーに怒られる)
(なまえちゃんからの言質もとったし、後は…ムフフ!)
(街の女の子に広めに行かないとねぇ〜。なまえをあんな奴らに渡してたまるもんですか)