■ ガーデンにて

ふうと息をついて腰に手を当てて額の汗を拭う。目の前に広がる品質良好の無農薬野菜たちはすくすくと育っていてもうすぐで実が成る頃合だ。
右端からトマト、とうもろこし、たまねぎ、パプリカ、すいか、メロン。台風が来ても大丈夫なように石で出来た柵もバッチリだ。


「なまえさん!」

「お疲れ様です」


背後から聞こえた声に振り返ると、小首を傾げて微笑むさくらちゃんと知世ちゃんがいた。
植えた種や苗を踏まないように彼女たちに近付きながら、今の私は汗臭いから少しだけ間合いを開けた。臭いとか言われたら立ち直れない。


「こんにちは、さくらちゃんに知世ちゃん。何か依頼でも?」

「こんにちはなまえさん。依頼と言ったら依頼なんですけど」

「今日はなまえさんをお茶会に招待しに来たんですの」


知世ちゃんの言葉に目を瞬かせて首を傾げる。お茶会の招待だと彼女は言った。誰をと問われれば私をと答えが出る。
ま、まさか本当にそんな、いいのだろうか。手に持っていたじょうろがカタカタと揺れる。やばい手が震える。
二人はそんな私に気付かずにふんわりと笑う。うわあ、可愛い!思いのままに叫んだら絶対不審者だと思われそうだ。


「それで、なまえさんのフラワーガーデンをお借りしたくて」

「ああ、今日はちょうど水もやり終えたところだし…。うん、大丈夫だよ」

「本当ですか!じゃあ私、みんなを呼んできますね!」


なるほど、確かに私の趣味で造ったフラワーガーデンは適所だなぁと自画自賛してみる。へへぇ、花の種を色々と植えてみてよかった。凝りに凝ったそこは花屋の幸村精市君やかすがさんが勉強に来るほどだ。
知世ちゃんと先にガーデンへと向かい、知世ちゃんとさくらちゃんお手製のお茶菓子をテーブルへと並べる。茶葉なら良品質のものがいくつも残っているため種類ごとにポットを分けて並べた。そうこうしていると、やってきたのは私が男なら思わず声をかけてしまうだろう麗しい女性陣だった。(きっと私が男ならヘタレた男だろうと思う)


「今日はお招きありがとう。はい、これ。私の牧場でとれた乳製品よ」

「わあ、美味しそうなお菓子がいっぱいですねぇ!」

「私これ食べたいアル!」

「神楽に鶴姫、先ずは挨拶が先だろう。すまないなまえ、知世、さくら」

「なまえちゃんがこの花全部育てたの?今度私に花瓶作らせてね!」


マリアさん、鶴姫ちゃん、神楽ちゃん、かすがさん、さつきちゃんの五人。他にも誘ったらしいけど、店から手が離せなかったり、街から出ていたりしたんだとか。さくらちゃん頑張ったんだなぁ、街っていっても結構広いのに。
私を含めた八人はさっそくテーブルを囲んでお茶会へとシャレこんだ。やばいんだ、鶴姫ちゃんと神楽ちゃんのお菓子を食べるスピードが凄かった。マリアさんはかすがさんとさつきちゃんの恋路が気になるようでグイグイ突っ込んでいく。真っ赤な二人の顔が非常に可愛い。私は知世ちゃんとさくらちゃんにお菓子の作り方を聞いていた。レシピ凄い。ここでも貰える。


「そういえば、なまえちゃんは好きな人いないの?」


マリアさんがふと思いついたようにこちらに顔を向けてにこやかに微笑む。シンッと静まり返った空気が何故か酷く重苦しかった。


「え?」

「好きな人よ。この街って確かに面白い反応をする人が多いんだけど、なまえちゃんは気になる人とかいないの?」

「好きな人…」


好きな人、好きな人、その四文字の言葉に首を傾げてしまう。そんな事考えたこともなかった。眉を思い切り寄せて考えてみても全くと言っていいほど出てこない。ああ、でもこれだけは確かだと思うことがある。


「この街の人はみんな好きだよ」


牧場主な私を快く受け入れてくれたこの街の人たちの暖かさが本当に好きだ。いつでも親切な人たちのために、私もなにか返さなければいけないと必死で自分で出来る限りのことをしている。依頼があるなら断らない。だって私はここの人たちが大好きだ。断る理由など何一つとしてない。
本当に当たり前のように言った私は心底、ニヤケていたのだろう。全員が顔を手で覆ったり、俯いたり、逸らしていたりした。
うん、まあ、私は大好きでも、みんなはそんなことないかもしれないけども。とりあえずお茶会に誘ってくれるぐらいには仲がいいと思う。


ガーデンにて、街の女子会
(なまえさんって何であんなに可愛らしいんでしょうか)
(絶対街の男どもに好き勝手させないと私は決めた)
(きっとこの街にはなまえちゃんに似合う人はいないわね)
(なまえは欲がなさすぎヨ)
(そこが素敵!なまえちゃん好き!)