■ 本気になったら価値がない

熱い。茹だる様な暑さに吐く息は湿り気を帯びていて、同時に体から滲み出る汗は動く度に雫になって落ちていく。打ち付けられる腰と、時折遊ぶように私の体を撫でる手のひらに声は止まらず出る。枕に顔を押し付け腰だけを持ち上げる私の背後で、息を弾ませながらも愉しげに笑うベリアルを肩越しに一瞥した。視線に気付いたらしいベリアルが少しだけ腰の動きを緩めて、まるで恋人にするかのように優しく耳にキスをした。ダイレクトに響いた音に無意識に力を入れてしまったのか、直ぐそこにあるベリアルがくつくつと喉で笑う。抽送する動きがぐりぐりと奥へと押し込むような動きに変わり、堪らず声が伸びる。


「んぁー…っ、ん、きもちぃ…」

「ああ、知ってる。なまえは奥が好きだもんなぁ…っ?」

「んんぅ、あっ、すき」

「ハーッ、蕩けた顔だ。…たぁっぷり感じてくれ」


ゆっくりと抜かれそうになった剛直がガツンッと奥へ叩きつけられ絶頂を覚える。同時に締め付けたそれがどぷりと中に吐き出したのを感じて、大きく息を吸い込む。独特な匂いが鼻をついて、けれどそれに嫌悪感を覚えなかった。
今で何回目だろうかと考えるも、全く頭が動かず直ぐに数えるのは諦めた。片手の数で終わる事なんて今まで無かったのだから、どうせ今日も同じだろう。ベリアルが少しだけ離れた途端に、栓のなくなったそこからぼたりと白濁が落ちる。気持ち悪いと思いながら頭を上げ、水を取ろうとしてベリアルの指が秘部を割り開くようにして触れた。更に落ちていくそれを眺めながら、愉しそうに目を細めるベリアルに腕を引かれて、一口だけ飲んだ水をさっさとテーブルに戻す。座るベリアルの上に乗り肩に手を置いて、もう既に起ち上がっているそれに触れた。絶倫なんだろうかと頭の片隅で生産性のない問を考える。


「ふっ、ぁ、…あぁっ」

「ん、なまえっ」

「んんっ、…んぅ、あっ、は」


中へと誘うように招き入れればピタリと収まり、ゆっくりと腰を落としていく。名を呼ばれ目の前にある薄い唇に舌を這わせれば、噛み付くようなキスを繰り返した。離れた頭を肩に預け、目の前にある太い首に歯を立てる。ぶつりと肉の破れるような音と共に流れ出した赤に吸い付き、興奮しきった低い声と共に下から突き上げられて、肩に置いた手に思わず力が籠る。


「くっ、ハッ、頭のネジ飛んだ?いきなり噛み付くなんて、色狂いにでもなりたいのか?」

「気持ちいい癖にっ、うぁっ」

「そりゃあ吸血行為に催淫効果があるからな。俺が言いたいのは、これ以上焚き付けてどうするんだってコトなんだが」

「んー…っ、そういう、きぶん」

「気分屋め」


ぐりぐりと奥に押し込むような動きに、思わず首を逸らして声にならない声を上げた。胸元を舌で舐め上げられ、下から笑って見上げてくるベリアルの余裕さが妙に癪に障る。意識的に腹に力を入れて、中にあるモノを締め上げてやれば途端に笑みは崩れた。眉を寄せ堪えるように大きく息を吐き出す姿に満足する。催淫効果もあり更に快感の度合いは増している筈だから、動かずに堪える様子を見るに相当キているだろう。その数秒後、恨めしげにこちらを見てくるベリアルに舌を出して笑ってやった。


「オイオイ…、俺のモノ喰い千切る気かよっ。いつからそんなに淫乱な女になっちまったんだ」

「主に貴方に責任がある、それにっ、ひぁっ!んっ、ちょっ、と!」

「ハハッ、ごめんごめん。…それに、何だって?」

「…私だけトんでも、愉しくないでしょ」

「…あー、成程。確かに、君だけトんで俺だけ素面なのは君に失礼だな。オーケイ、天地が狂うほど貪り合おうか」

「あっ、あ、あなっ、た、ホントに絶倫…っ!」


真っ赤な舌が唇を撫でる。「褒め言葉だ」笑い声を上げ、腰を掴んだ手が容赦無く中を抉るように突き上げてくる。部屋の中に響く堪えきれない喘ぎ声と淫靡な音に耳を塞ぎたくなって、けれど今ベリアルの肩から手を離してしまうときっとこの状態を保てない。まだ続くであろう行為のことを考え、ほんの少しでいいから手加減してくれないかと見遣り驚いた。予想とは違ったその表情に。何時だって冷静に物事を判断していただろう赤が熱に浮かされたように細められ、余裕を顕にしていた軽薄そうな笑みは今や荒い息と共に消えていた。
一体これはどういったプレイだとベリアルによって毒された頭の片隅で考えるより先に、奥を突かれ絶頂を感じると同時に押し倒された。繋がったままの結合部から剛直を抜く事もせず、足を開かされてそのまま律動が始まる。イッたばかりの体に更に快感の波が襲いかかり、堪らず一際高い声が部屋に響いた。


「きゃぅっ、あ、あぁあ…っ、あんっ!」

「ハッ、あーっ、ハハッ、気持ちイイな?なまえ?んぅ」

「んぅぅ、んっ、…ふぅ、あっ、ぁふ…、んうぅっ!」

「んう、ぢゅ、はあ…、そうだ。名前、呼んでてくれないか?」

「…んっ、…ん、べ、りあ、るっ?」

「そう、できれば終わるまで。ずっと、…な?」


はぁと息を落として、ごちゅごちゅと腟内を擦り動く剛直にもう訳が分からなくなってきた。とにかく気持ちいいとしか思えず、腕にも力が入らなくなって投げ出した自身の手のひらに滑る大きな手。ベリアルと名を呼べば、熱い息と共に唇が触れ舌が絡み下唇を食まれ吸い付かれる。冷静な判断が出来ていたら、まるで恋人通しのようだなと笑っていただろうに、今の私はベリアルのやる事なす事全てに欲情してしまって、ある意味でショートしてしまっていた。流れ落ちてくる赤い雫に頭を上げて舌を這わせれば腹が満たされる。


「あ、ふっ、んん、…きもちぃ、ぁ、ふっ、べりあっ!」

「はぁっ、なまえ、なまえっ。アッ、は」

「べ、ある…!べりあるっ、べりある、…ぅあんっ!」

「あぁ、まだまだ、いっぱいイこう、な?…んんっ?」

「やぁっ、あぁあ…ッ、ベリアル、あ、あっ、ぁあ!」

「なまえ、アッ、ぐ、はぁっ…!」


今日はそういう気分なのだろうと割り切ることにした。初めてのこと過ぎてついていけなかった頭も、漸く現状を受けいれ始めた。どうせこの一夜だけだ。ならばシラケる様なことはせず、そのノリに乗ってやるまで。まるで恋人かのように情熱的に絡み合い、貪るように求め合いながら交わった。
空が白み始めた頃に漸く終わりを迎え、ぼんやりとした意識の中で隣に寝転がるベリアルを見る。眠そうに細められた赤はそれでも瞼を下ろすことは無く、今回も諦めてさっさと眠る事にした。視界を閉ざし、気怠い体が落ち着く場所を探して、気紛れに頭を撫でる男の手を感じながら意識を落とそうとして。ふと浮かんだのは普段と今現在の違和感。


「眠れない?もっと激しい方がヨかった?」

「…寝てる女の顔みて楽しい?」

「口に指を持っていくと擬似的な口淫を見れるから暇にはならない」

「やられた事ないけど」

「どうだったかな」

「ああ、もう。隣でずっと気を張られちゃ寝るに寝れないの」


眠た気な赤が少し驚いたように開かれ、そうしてゆっくりと見たもの全てを虜にするかのような笑みを浮かべる。寄せられた唇に応えてやり、名残惜しげに離れた頭は胸元に向かい、そうして赤が閉じられた。


「少し、休む。俺が起きるまで隠してくれ」

「ええ。おやすみなさい、ベリアル」


手早く紡いだ言の葉は簡易的な結界を作りあげた。いつだって気を張り詰めていた男が本格的に意識を落とし、何もかもを曝け出したのは初めてである。素直じゃないと嘆息しながら、私もようやく襲いくる眠気に身を任せることが出来た。


2019/12/07