■ V

死角から破壊したカメラの数は数百。数えようとして至る所から落ちてくるそれに面倒だと諦めたのはもう数十分も前の事。全ての監視カメラを破壊せしめた二人の男(元女)に、ナンパ目的で街を駆け回っている女(元男)は感謝するべきだと思う。まあ当然の如く鉢合わせした両者に苦笑し、情けない顔を晒した女の肩を叩いて宥めるしかなかった。調子に乗ったらしい坂田さんと土方さんからの激しい抱擁(タックル)は、流石に男の体になった私も堪えたけれど、倒れるなんて無様は晒さなかっただけ褒めて欲しい。元が男だとしても女の見目になられたらどうも無碍にできない。


「おいおい、止めてくれるかお二人さん。なまえは俺達が預かってる大事な身なんだ」

「え、預けたつもりは無いけど」

「なまえは女に弱い。離してくれると有難いな」

「うるせぇ!前の話から仄かにBL臭漂わせてんじゃねぇよ!」

「誰もお前らとの絡みなんて期待してねぇよ!」


ヒートアップしてきた二人を宥めすかして、とにかくかぶき町中の監視カメラは全て壊れた事、かぶき町を巡回している信者達も月雄率いる百華が捕らえている事を伝える。月雄と猿飛さんが嘲笑混じりに口角を上げるのを一瞥して、坂田さんと土方さんに目を移せば、その表情といったらもう言葉には表せないほど悲惨なものだった。
合流したまんせん組に啖呵を切った月雄と猿飛さんは、百華の捜索隊から信者達の拠点を割り出し堂々と出向いた。二人に続いたのは神楽ちゃんと十兵衛さんで、集結する信者達をものともせず次々と叩きのめしていく様は、以前は女だったのが信じられない程である。


「まさか下水道に拠点があるとは思わなかったな」

「いや、そのなまえさん…。本当にどうしてこうなったんですか…」

「どうしたもこうしたも、女が強かなのは前も同じだっただろう。男の身になって、それが更に助長されたんじゃないか」

「いやいやいや、ハイスペック過ぎるだろォ!!俺達が男だった時より断然おっとこ前になってるよ!俺達の出る幕完全に持ってかれちゃったよ!」

「グッ!女共に負けてらんねェ、遅れをとるな!まんせん組出動だァァァ!!」


新八くんと坂田さんの叫び声を聞きつつ、刀を振りかざし下水道へと突入しかけた土方さん。それがどうした事か。まさかマンホールにキッチリ嵌ってしまうなんて土方さんも思わなかったんでしょう。うんともすんとも身動きの取れなくなった様子を見下ろす私達に、ふっと口元に笑みを浮かべて親指を立てた。


「ここは俺が死守する。あとは俺に任せて先にいけ」

「どこにだァァァァ!!」

「オ…俺はもうダメだ。自分の身体の事は自分が一番よくわかる。構わず先に行け」

「わかってねーだろ、わかってねーからハマったんだろ!てめーがいたら行く所にもいけねーって言ってんの!」


無理だと騒ぐ土方さんにそこを退けと坂田さんたちが騒ぐ。別の所から入ればいいんじゃないかと考えはしたものの、一番近いのはここであることは確かなので。土方さんの傍にしゃがみ、両手を広げて見せた。


「ほら、力を抜け。そんな所に収まるならこっちに収まりな。寂しいんだ」

「なっ、そ、そんなもんで抜けるわけっ」

「我儘言うのはこの口か、塞ごうか?」

「いっ」

「はいなまえ!両手が寂しいんなら銀子さんがいますけど!」

「後にしろォォォ!!」


見下ろしてその唇に指を押し付ければみるみる間に真っ赤に染まる顔は見ていて面白いけれど、新八くんが怒ってしまったので肩を竦めてその場を離れる。沖田くんが容赦なく土方さんの体スレスレ目掛けて刀を振り下ろし、何とか下水道に入ることに成功した。土方さんが物凄く青褪めていて同情する。


「ス、スゴイ…!あっという間に一網打尽にしちゃった…!信じられない、まさに男顔負けの活躍ね、みんな」

「うむ。あやお殿、月雄殿、君達の助けのおかげだ」

「礼なら俺達百華を忍者講習会に誘った猿飛にいってくれ」

「僕らがこの街に来ていなかったらどうなっていた事か」

「まあこれで無事に元に戻れたらいう事はないんだけどな」


変わりに変わった百華に苦笑しながら、元女性陣に制圧された拠点を見渡す。服装等は信者全て同じで、見分けはほとんどつかない。逆に大司教との違いといえばあの仮面だろうと思う。その大本はいるだろうかと一人一人を見ていくも、大司教らしき人は見当たらず眉を寄せる。ここに居ないのなら何処にいるのか。


「いっそこのまま女として、みんなまとめて月雄さんのお世話になる方が、吉原で汗を流した方が社会的に役に立つと思うの」

「オメーら揃いも揃って女を何だと思ってんだ!」

「そうよ!身体だけが目的なの!!」


気が付けばお妙ちゃんがとんでもない事を言っていて、土方さんと近藤さんが恐怖からその体を抱いていた。月雄も悪ノリして任せろとか言うもんじゃない。何かの拍子に元に戻ったら悲惨な光景が広がってしまう。


「人の手柄だろうと何だろうと関係ねぇ!とにかく俺達は元の身体を取り戻す!オイまだか!何か元に戻るワクチン的なものとか何かあるだろ!」

「それが副長、それらしきものは何も」

「どころか、教団を率いていた大司教の姿もない」

「…オイそれどういう事だ。まさかここは奴等の拠点じゃ」

『いいえ』


突如介入してきた声に全員が目を向けた。大きなモニター画面に映し出されたのは探していた人物であり、坂田さんの言葉に否と緩く首を振る。


『神は見ていました。この試練の中、あなた達が誰より男らしかった事。そしてあなた達がただの雌豚であった事を。その殉教神を称え、私達も…いえ、神も約束を護りましょう』

「貴様!何をするつもりだ!」


大司教が画面の中で小型のスイッチを入れた事に十兵衛さんが声を上げ、やがて上から地鳴りのような大きな音が聞こえた。拠点である地下から急いで外を確認しに行けば、街の皆が揃って歓喜の声を上げて「元に戻ってる」と口にする。唖然としたのは当然のことで。


「…街が元に戻ってる」

「地下にいた俺たち以外」


嘆く坂田さんと土方さんの声をかき消すようにスピーカーから発された報道は、攻撃型人工衛星は無事破壊されたという、今の私達にとっては最悪な報道で。今頃元に戻っているお店の女の子達やママとどう顔を合わせればいいのだろうか。思わず頭を抱えてしまった私は何も悪くない。


2017/12/06