■ 交番にて

大変な事になった。私の兄から引越し祝いに貰ったまあまあ高級な財布をなくしてしまったのだ。これは本当に泣きたい。肌身離さず持ち歩いていたのに。あんなに一緒だったのに。…このネタわかる人いるのだろうか?
ほとんど涙目のまま街の交番まで行けば、外を見ていたのだろうお巡りさんの静雄さんが慌てて出てきた。


「なまえ、なまえ、どうした?ノミ蟲になんかされたか?あの野郎ホント今日こそは言い逃れできねぇぞ、ぶっ殺してやんねーと」

「ち、違うんだ静雄さん」


静雄さんの眉間に皺が寄ってその顔に青筋がビキリと浮かび上がる。ノミ蟲と言うのは恐らく臨也さんのことだろう。彼らは水と油、いや電子レンジと卵みたいな関係だ。組み合わせた瞬間に爆発が起こる。
ヒートアップしそうな静雄さんを必死で宥めて落ち着かせてやれば、どうして泣いてるんだと詰め寄られた。泣いている訳じゃない。泣きたいけど。


「兄から貰った私の大切な財布がなくなってしまったんだ。落としたかもしれないから、一応届いてないか確認しに」

「財布?あー、あったような、なかったような…」


何とも曖昧な反応にこちらも困ってしまう。とりあえず中に入れてもらう事にして、探してくるからと静雄さんは奥の部屋へと行ってしまった。私はあまり入ったことの無い部屋の内装を見渡して待つ事にした。うん、綺麗に整えられているらしい。ボーッとする事数分、背後から聞こえた足音に振り返ると学生服を身にまとった男の人が一人立っていた。


「……なまえか?」

「承太郎くんだ、こんにちは」

「変な奴…DIOにでも追いかけられたか?」

「そこで私が肯定したらどうするつもりなんだ」

「ぶっ飛ばしに行くに決まってんじゃあねぇか」

「やめて」


交番に入ってきた背の高い承太郎くんは私を見て隣に座る。承太郎くんも何か落としてしまったのだろうか。そうだったらお揃いなのだけれど、どうやら落し物を拾ったらしい。ポケットから出てきた茶色い紙袋をテーブルに置いて二人で他愛もない話をしながら静雄さんを待つ。


「なまえ、やっぱり無かった……空条か。どうした?」

「そっか、やっぱりなかったのか」

「俺は物を拾ったんでな。届けに来た」

「紙袋に入れてか?」

「勝手に触られんのが嫌な奴もいるじゃあねぇか」


静雄さんが言うにはやっぱり見つからなかったらしい。泣きたい。大切にしていたのになぁ、道の途中にまだ落ちてるかなぁ。にしても静雄さんと承太郎くんの声って本当に似てると思う。承太郎くんがオラオラ言ってる時静雄さんが言ってる感じがしてドキッとする。


「なまえは何か落としたのか?」

「うん、兄に貰ったものなんだけど」

「大切なのか?」

「とっても」


承太郎くんの言葉に深く頷けば頭を優しく撫でられた。うう、その優しさが私の癒しになる。もっと撫でろと言わんばかりに擦り寄れば、目の前のテーブルが飛んでいった。な、何事。静雄さんの瞬発力で紙袋は無事回収したようだ。


「空条、気持ちは分かるが器物破損で捕まえんぞ」

「……やれやれだぜ」


うっすらと承太郎くんの背後に見えた何かと、テーブルがぶっ飛んだのは何か関係があるのだろうか。学帽を目深に被り直した承太郎くんは私の頭を更に撫でた。承太郎くんはなかなかテクニシャンである。


「で、なまえが落とした物って何だ?」

「財布だとよ」

「財布?ならそこにあるじゃあねぇか」


承太郎くんの手がピタリと止まり静雄さんが持っている紙袋を指さした。まさか、まさか承太郎くん…!君ってやつは…!
静雄さんが紙袋から取り出したものは確かに私の大切な財布だった。私は承太郎くんの手を握った。ほとんど反射的なものである。


「君の願いを言ってくれ。難しくても頑張ろう」

「じゃあなまえの時間を俺にくれ」


握った手を握り返されてエメラルドグリーンの瞳が私を見つめた。時間なんてあげて何か得するのだろうかと考えながら答えようとすれば何故か静雄さんが怒り出した。途端にオラオララッシュと手当たり次第の物が空を飛ぶ異様な空間になってしまった。全く持ってどうしてこうなった。



交番にて、探し物を見つける
(調子乗んのも大概にしろやぁぁぁぁ!)
(やれやれ、短気はいけねーぜ平和島さんよぉ!)