■ 子供を預かる黒尾

ドアを開けたら何やら慌てた様子で、まだ二歳ほどだろう赤ん坊を抱えた黒尾の姿があった。何も言わずに扉を閉めて、固まっている黒尾に狙いを定めて手に握っていた携帯を振りかぶる。


「誤解だ!」

「五回?なに、黒尾は五回しかあってない女の子供を預かってると?」

「違う違う違う違う!そうじゃない!」


子供を抱えたまま手を横に振る黒尾に携帯を持っていた手を下ろす。安堵した黒尾を一瞥して子供の顔をよく見る。垂れた目元に茶髪気味の生え始めたばかりの頭髪。黒尾の遺伝子ではなさそうだ。漸くこちらも息を落ち着けることが出来た。


「で、なんで子供?いつの間にパパになったの黒尾」

「お前それ彼氏に言うセリフかよ」

「優しい黒尾の事だから迫られて断れずうっかり」

「ねーよ!なまえの信頼がないとは薄々思ってたけど、ゼロどころかマイナスだとは思わなかった!」

「信頼はしてるけど可能性が無いわけじゃなさそうで…」

「もうちょっと自信もって!俺なまえ以外眼中に無ェから!」

「うん。私も黒尾以外眼中にないよ」


騒ぐ黒尾の腕の中でうとうとしてる赤ん坊の頬をつつく。やわっこい。なんてやわっこいんだろうか可愛い。黒尾がこんなにぎゃんぎゃん騒いでるのに気にせず寝ようとするなんて、何て肝っ玉の座った男の子?女の子?だろうか。
起さないようにとうりうりと柔らかい頬をつつきつつ、黒尾を見上げれば顔を手で覆っていた。何してんだコイツ。


「……何でそんな男前なのお前」

「照れんなよハニー」

「なまえ好き。俺の子供を産んでください」

「私と子供を養えるぐらいの財力を持ったらいつでも産んでやる」


子供片手に抱き締められて玄関先で何やってんだろうと我に返る。ぐいぐいとかったい胸板を押して部屋へと押し入って両手を広げた。戸惑ったような雰囲気で、キョロキョロと周りを見渡す黒尾に首を傾げて察する。


「黒尾違う。私が求めてるのはそっちの赤ちゃん」

「ちょ、ええ、そこは俺だろ?」

「え、何で?」

「は?馬鹿なの?」

「んだとコルァ」


喧嘩が始まりそうになるも、黒尾がムスッとしたままソファーに座ったので私も隣に座る。赤ちゃんは預けてくれなかった。何でなの。何故か黒尾が拗ねてしまったので、ご機嫌取りに頬にキスしてやった。


「もおー!何なのお前ー!」

「え?嫌だったの?」

「もおー!嫌なわけねーだろー!好きー!」

「へへー。好きって言われちゃったぜー」


拳銃で撃たれたみたいな反応した黒尾に、赤ちゃん大丈夫かと思ったけどスヤッスヤ寝てる。何て図太い赤ちゃんなんだ。可愛いし逞しいな。将来有望だぞこの赤ちゃん。


「で、理由を聞いてないんだけど?」

「いやそこは分かるだろ。母さんの妹の子だよ」

「黒尾がパパ?」

「なまえは俺をそんなにパパにしたいのか?」

「まあいつかはね」

「……ホント男前だな」


黒尾のお母様の妹の赤ちゃん、と言うことは黒尾の従兄弟という事か。いいなぁ、私も従兄弟はいるけど全員私より年上。弟とか妹とかって感じ憧れる。性別を聞けば男の子らしい。うん、この落ち着きっぷりはホント将来有望だ、モッテモテだろうな、私が保証する。


「ねー、黒尾くーん」

「何だよなまえさーん」

「言いたい事がありまーす」

「なーにー?」

「プロポーズは私に言わせてほしーい」

「いー…、くねぇ!」

「安心してハニー、忘れられない最っ高の日にしてやんよ」

「それはっ!俺が!言いたい!」


流されるかなと思ったけど勢いよく言葉を返されて笑う。それでも微動だにせず眠る赤ちゃんを眺めながら、黒尾との赤ちゃんもこんだけ落ち着きあるのかなぁなんて、赤ちゃんの頬をつつきながらそんなことを思った。


2017/03/01