■ 中学生な仁王と笑う
プリーと聞こえてきた未だに意味を理解できてない擬音。顔を上げて声の聞こえた方へと首を向ければ、両手を伸ばして笑う仁王がいた。
「え、なに?」
「構ってくれんかのう」
「まだ勉強中なんで」
「根を詰めすぎるのも良くないぜよ」
両手でおいでおいでと手を振る仁王にため息。この男、前回の小テストで私が何点を叩き出したか知ってのこの狼藉。許してはやらぬ。
「お覚悟!」
「なまえちゃんアホな事ばっか覚えよる」
「彼女に向かってなんだその言葉!」
でやーっ!と仁王の頭をわしゃわしゃかき混ぜる。勉強ばっかりで疲れきっていた私は、仁王が楽しそうに笑うのを見て確かに癒されていた。中学生男子尊い…。私の彼氏最高すぎかよ。
「んー、なまえちゃんの真面目ちゃんな所は好きじゃよ」
「なんだなんだ。私も仁王がテニスしてるとこ好きだよ」
「でも俺を構ってくれんのは嫌いじゃ」
「うわ、そんな事言うの」
唇を尖らせる仁王に呆れて手を離す。上げて落とすとは、この中学生ホントに中学生なのか?ホストみたいな事言ってきやがるぞ。ちょっと前に年齢誤魔化してんじゃないかと思って、年齢詐称とかしてない?詐欺師だけにとか笑って言ったら、仁王はニヤリと悪そうな笑みを浮かべて「ヒミツ」と言った。正直今もまだ疑ってる。
「今は仁王に構ってんじゃん。許してよ」
「俺と勉強、どっちが大事なんじゃ」
「仁王」
「好きじゃ」
「私も好きー」
即答してやったらはにかんだ仁王に有難いお言葉をいただいた。可愛い男め!私が仁王より勉強を取るわけないだろ!
「俺がいる間は俺に構いんしゃい」
「承知!」
「なまえちゃん可愛い可愛い」
「へへへへ、仁王も可愛い可愛い」
「可愛いよりカッコイイのが嬉しいぜよ」
ぷくーっと頬を膨らませる仁王はやっぱりカッコイイより可愛いの方が合ってる。私より女子感があるとは何事。よく赤也に「先輩たち性別間違えてるッスね」とか言われるけどあながちそれも間違いじゃないという事か。仁王が女の子だったら世の男どもが黙ってないじゃないか。
「なまえちゃん?俺を放っとかんといて」
「仁王の事考えてた」
「ピヨ」
あ、照れた。ちょっとだけ視線をずらし、ほんのり血色の良くなった顔を見て分かり易い男だなぁと思う。これで仁王が女の子だったらのことを考えてた、と言ったらどんな顔をするんだろう。
「なまえちゃん、こっち向いて」
「むい、何をする」
「変な顔じゃ」
「なにおうこの野郎め」
仁王の言葉に従えば、むにっと最近膨らみを増して危機を感じている頬を両手で挟まれた。笑う仁王はそれはもう可愛いのだけど許せぬ。乙女は何かと気難しい生き物なんだぞ馬鹿たれ。報復として仁王の頬を挟んだ。肉がない。勝ち負けじゃなかったのに負けた気がするこのやるせない気持ちはどうすればいいんだ。
「まるっとしたなまえちゃんも可愛いぜよ」
「慰めが辛い…」
嬉しそうな仁王とは対照的にしょっぱい顔してる私。ちゅっと鼻先にキスされて目を丸くすれば、仁王は悪戯が成功したように笑う。
「俺が知っとけばええじゃろ」
仁王はやっぱり男の子がいい、と赤也に伝えておかねばならない。ぎゅうぎゅう抱きしめられながらそんなことを考えて平静を保っていた。
2016/10/23