■ グリムジョーは殺したい
摩訶不思議な体質をもって産まれた私は、幼い頃から友達と呼べる友達がいなかった。私には視えているものが、周りの子達には何も見えていないらしい。はてと首を傾げて、幼い私にはそのことが何を意味するか理解出来ず、そこにいるじゃないかと言い続けた結果。友達なんて一人もできなかった。
小学校を卒業した後で黒崎一護という、私に似た体質をもった男の子と出会った。勢い余って初対面時から友達になって下さいと叫んだ私を、黒崎くんからしたら気持ち悪かっただろうに、そんな事を微塵も感じさせないように笑って頷いてくれた。
「へえ、なまえは触れるけどアイツらからは触れないのか」
「うん。視えるし触れるし話せるけど、向こうからは触れないらしいんだ」
「そこが俺となまえの違うとこか」
興味深げにまじまじと見下ろされて気恥ずかしくなり、察した黒崎くんも顔を仄かに赤くさせて慌てて謝った。
ようやく気の許せる友達ができた私は、そこからは黒崎くん経由で色々な人と友達になることが出来た。黒崎くんの幼馴染だという竜貴ちゃんや茶渡くん織姫ちゃん、徐々に私の友達作りも上手くなったと思う。その部分に対してはほっこりしてる。黒崎くんに感謝だ。
「なんだお前触れねぇぞ?」
「オーマイガッ」
いつもの様に黒崎くんの家に遊びに行こうとしたら、リーゼント風にした水浅葱色の髪のお兄さんが私の体を腕を伸ばしてスカスカと通らせていく。こんなに意識ハッキリしてる幽霊視るの久し振りだなぁ!変に感動してしまう。
ウチのじっちゃが「目を合わせてはならんよホホホ」とか言ってたから言いつけを守ってお兄さんから顔を逸らす。早く黒崎くんの家行こ。
「おいこら待て見えてんだろ」
「知らない人と話しちゃいけないってじっちゃが言ってた」
「じゃあ今話したから問題ねぇな。知人ぐらいにはなっただろ、止まれ」
「知人というほどお兄さんを知らないんだけど…」
なんかずっと着いてきそうだったからため息をついて振り返ったら、驚くことにお兄さんがテレビでしか見たことない刀を振りかざしていた。なんてこったい。振り下ろされたそれは真っ直ぐ、私の頭の天辺から足の先までを斬ったけれど、お兄さんが幽霊の時点で私に触れることは出来ないし、勿論の事お兄さんの所有物である刀だって私には無害なのである。いえい。
「……ホントに触れねぇのか」
「お兄さんが幽霊の時点で勝ち目はねーんですよふへへへ」
「ぶっ殺すぞ」
「ごめんなさい」
いくら触れないからと言ってそんな怖い顔をこちらに向けて脅さないでほしい。私は生まれてこの方ヘタレとして生きてきたんだ、優しくしやがれ。お兄さんは刀を仕舞ってからまた腕を伸ばしてくる。スカスカスカスカ、掠りもしねぇぜ。舌打ちが聞こえて内心震え上がる。こんな強面のお兄さんに私は何をしたというのかブルブル。
「あの、もう行っていいですか。友達が待ってるんで」
「お前に触れなくてもそのトモダチには俺は触れるだろうなぁ」
「そそそ、そういう脅しはいけないことだと思う。こら待て!」
ニヤリと悪どい笑みを浮かべて私の進行方向へと足を伸ばすお兄さんの腕を掴んで引き止める。少し驚いたような顔をこちらに向けた。
「……お前からは触れんのかよ」
「行かせねぇぜ。私の大切な人なんだ」
「なんだ、恋人か?」
「違うね!黒崎くんは私の初めての友達なんだもんね!他とはそりゃもう天と地の差はないけど、頭一個分は大きい存在なんだもんね!」
「……黒崎ィ?」
途端にお兄さんの顔が怖くなった。黒崎くんもしかしてこのお兄さんの友達なのかな。いやちょっと待ってよ黒崎くん、私が言うのもどうかと思うけど友達は選んだ方がいいよ。人選ミスってる!
とにもかくにも前へ進もうとするお兄さんの腕を必死で抑えてやめろーと声を上げる。これは傍から見たら明らかな不審者だけど、幸い周囲に人はいない。遠慮なく声を上げてその腕を掴むことが出来る。
「黒崎くんに何かしたら許さないからなぁ」
「お前の口からその名前を聞く度にお前を殺したくなる。ちょっと黙ってろ」
腕を離した途端、鞘に戻した刀を再び抜いてグッサグッサお腹を刺してくるお兄さん。だがしかし効かぬ。私の体がスケスケだぜ!いや、これは駄目だな。本家の人に怒られる。
「いい加減無理だというのに」
「うるせぇ。…お前、黒崎のとこ行くんだってな。俺も連れて行け」
「黒崎くんに何かしたら許さないからな!」
「さっきも聞いたし、名前を口にするなって言ったろ殺すぞ」
「口だけは達者だなお兄さん!」
スルリと私の体を通り抜けて刀を肩に担ぐお兄さんは笑んで先を歩く。ちょっと待てと、慌てて後を追う。なんだか知らんが黒崎くんに迷惑をかけてしまいそうだ。ごめんね黒崎くん。先に謝っておくよ。
2016/09/26