■ 黒尾の腹筋を触る
ハーッと上がった息を落ち着かせるように大きく息を吐き出す、そんな音に気付いて顔を向ければ汗だくの黒尾が目に入った。休憩の指示を出す黒尾の声に、自分も全員分のドリンクを用意してタオルをその傍に置いていく。
「ちゃんと水分とってね。頭痛くなったり、体がしんどくなったらすぐに声かけてねー」
わらわらと集まる皆に声かけを行いながら、なくなっていくタオルとドリンクの数量を確認。よし、ちゃんと全員分あった。
隣に座る研磨くんの額に冷たいタオルを押し付ければ、小さく声を上げて眉を寄せながらこちらを見上げる。睨まれてる感がすごいけどもう慣れてしまった。
「よーしよしよし、頑張ったねー」
「…やめて」
「んんー?」
小さい声を聞き流しながらそのプリン頭を撫でる。やめてと言いながらも手を振り払わないあたり、甘えているんだろうなぁと自己完結しておく。可愛い後輩だなぁもう。
研磨くんの頭をうりうりと撫でていれば、ふと黒尾の姿が目に写った。夏の暑さに少なからずやられているようで、腰に手を当ててタオルを使わずにTシャツで汗をぬぐっている。ちゃんとタオルを使えよと内心悪態をつきながらタオル片手に黒尾の背後へと近付く。気付いていないらしい黒尾に笑みが漏れ、Tシャツを上に引き上げているせいでチラリと見えている腰に目をつけた。
「……ていっ」
「っ、ほぉあ!?」
普段聞けないような叫び声が黒尾から聞こえて笑った。
後ろから腕を回して硬いであろう腹を触っただけなのだけれど、予想以上の反応だった。それよりも失敗だったのが、私の手が若干汗まみれになったことだ。ちくしょう、流石運動部だ。
「ちょっとなまえちゃん?」
「あー、汗まみれだよ。もー」
「勝手に触っといて言うセリフか。おま、ホント何がしたいの。黒尾さんついていけない」
「タオル渡しに来ただけだよ。腹筋はほら、ついで」
「ついでで俺の腹を触るのかお前…」
「ナイス腹筋」
親指を立ててタオルを差し出せば、奪い取るようにタオルを手にする黒尾。
いやでもいい腹筋だったよ。弛んだ所は触った感じなかったし、ちゃんとシックスパックできてた気がする。引き締まった腹筋とかもう最高だよ。野球部とサッカー部の腹筋もそりゃ堪らんものがあるけど、バレー部の腹筋もなかなかのものだ。なんだろ、部活動って学校の宝庫か何かかな。
「いずれお前に体中触られそうで怖い」
「は?やめてくれるこの被害妄想血液トサカ野郎」
「散々な言われよう」
「私が触るのは硬い腹筋だけで、あんたの体(腹以外)に興味はない」
「おま…、お前ホントに……言葉には気をつけろよ…」
ふっかーいため息をつきながらタオルに顔を埋めてしゃがみ込む黒尾。なにやらショックを受けているらしい。へへん、いい様だ。ちょっと顔がいいからって何でも許されると思うなよバーカ。
「あと触ってないのはリエーフくんだけだ」
「え、研磨は?」
「なかなか良いものをもってたよ」
「嘘だろ!研磨はそんな軽い男じゃねぇ!」
「触らせてーって言ったら案外簡単に」
「研磨ァ!」
嘆く黒尾に離れたところで様子を見てた研磨くんが嫌そうな顔をした。手を振れば小さく振り返してくれる。可愛いなぁ。
最後はあのリエーフくんだ。さてはてどんな硬さをしてるのかな。楽しみだなぁ。リエーフくんを触ったらバレー部はもうコンプリートだ。女の子の柔らかいお腹も好きだけど、やっぱり硬い腹筋が一番好きだ。うわ私変態みたい。
「……なまえってホント腹筋にしか興味ねぇのな」
「運動部のマネージャーになったのもそのためだしね」
「動機が不純すぎる…」
「あ、でも一番好みの腹筋は黒尾」
「え」
「今のところはね。気になってるのが烏野高校の澤村大地くんと、月島蛍くんかなぁ」
「……ふーん。へー。あっそう」
何かを考え込むように、適当な返事を返してくる黒尾に首を傾げる。すくと立ち上がった黒尾に驚きつつ顔を覗き込めば、わしっと肩を掴まれた。え、何事。
「お前が好きなのは俺だな?」
「え、語弊がある…。うん、でもまあそうかな」
何か大事な部分が抜けてる気がするけど、そこは黒尾の頭の良さがあれば補足してくれるだろう。特に気にせず頷けば、黒尾は満面の笑みを浮かべた。え、怖い。
「調子に乗るな、クロ」
研磨くんの声と共に勢いよく飛んできたバレーボールが黒尾の顔面にクリーンヒットした。
2016/07/26