■ デビルおそ松は秘密がある

大通りから少しばかり離れた人気の少ない静かなその場所には教会がある。そこには一人の神父様と修道士様が住んでいるのだけど、私もお手伝いをさせてもらっている。お手伝いと言っても簡単なもので、掃除やミサの準備といったもの。ほとんどが掃除を任されるのだけど。


「神父様、お掃除終わりました」

「ああ、毎日ありがとう。すまないがトド松を呼んできてもらえないか?それから休憩しようか」

「お安い御用です」


ふんわりと口角を緩めるカラ松神父は今のようにしていたら凄くいい人だ。だけどイタイ発言が飛び出してくるので困ったものである。聖書をあのイタさ全開の言葉で読まれた時は流石にビビった。何を言っているのかさっぱり分からなくて、それでも何とかして聞いていたら途中でやって来たトド松さんに殴られてた。


「トド松さん、休憩にしようって。神父様が」

「あ、ほんとに?じゃあ片付けてからスグに行くよ。悪いんだけど今日はなまえちゃん一人で準備をお願いしてもいい?」

「任されました」


修道服をひらりと靡かせて振り返ったトド松さんの足元には「キューッ」と鳴いている黒い蝙蝠のような生物が数十匹程。立ち上がろうとしたそれを容赦なく踏みつけて留まらせるトド松さんにはもう慣れてしまった。
この教会は悪魔に狙われているのだと言う。トド松さんの足元に伸びていた小さなあの蝙蝠みたいなものも悪魔の遣いらしいのだ。頻繁にやってくるそれをトド松さんが祓っている。トド松さんでも手に負えない悪魔の場合はカラ松神父が祓っているらしい。見たことはないけれど「悔しいけどあの人には適わないんだよねぇ」と愚痴混じりにトド松さんが零していたので本当の話なのだろう。


「あっつ…!」


考え事をしていたからか、カップが熱いのに気が付かなかった。火傷しているかなぁとひんやりとした空気の中で手を振って誤魔化した。


「あー、駄目だよお姉さん。ちゃんと流水で処置しなきゃ」

「え、あ、そっか。ありがとうございます」

「どーいたしましてー」


振っていた手を取られて流水へと持っていかれる。指先があっという間に冷えて痛いぐらいになってきた。ふと私の手を握るその人を見る。この人いつからいたっけ。


「あの、失礼ですけどいつからここに?」

「んん?カラ松に聞いてない?」

「いえ」

「そっか。俺、カラ松とトド松の友達のおそ松。よろしくなー」


へらっと笑うおそ松さんに瞬きを一つ。流水から出した手に、タオルを渡してくれるおそ松さんにお礼を言ってじぃっと見つめる。凄く顔が似ている。けど、雰囲気は全く違う。カラ松神父とトド松さんも瓜二つだけど、この人も合わさればもう見分けがつかなくなりそうだ。


「おそ松さん」

「そ。お姉さんは?」

「あ、申し遅れました。なまえって言います」

「なまえちゃんか。ちなみに年齢は?」

「えっと、カラ松神父よりは下です。トド松さんと同い年くらい?」

「カラ松もトド松もおんなじ年齢だけどな。そっか、そっか!アイツらなまえちゃんを隠してたわけねぇ」


なんと、カラ松神父とトド松さんが同い年だなんて。今年一番の衝撃かもしれない。言い過ぎだけど。おそ松さんは一人頷きながらテーブルにあるロザリオを指さした。


「あれ、カラ松から貰ったんだろ」

「おお、凄い。何でわかったんです?」

「そりゃ、あんだけ退魔用に作られてたらなぁ」

「常に身につけておくように言われてるんです」

「あ、だから俺となまえちゃん会えたのか」


苦い顔をするおそ松さんに首を傾げる。何でもないと言って笑うおそ松さんはそれでも難しそうな顔をしていた。
休憩の準備は終わったし、二人を呼んでこないとなぁとテーブルにあるロザリオを手にするより早くおそ松さんが声を上げた。言葉になっていない言葉に驚いて振り返るとトンッと指が鎖骨に触れる。意味不明なその行動に首を傾げると、おそ松さんも同じように首を傾げて笑う。


「なまえ!」

「なまえちゃん!」


けたたましい音を部屋に響かせて、慌てた様子で入ってきたカラ松神父とトド松さんに目を丸くする。二人は顔を青くさせて、次の瞬間に私はトド松さんに手を引かれカラ松神父が私たちの前に立つ。一体何事。


「俺に隠し事なんて酷くなーい?神・父・様」

「なまえはここのお手伝いさんだが、それとこれとは関係ないだろう」

「ふーん?」

「隠していた事に関しては、見つけられなかったお前の力不足だな」

「……わー、イラッときたわー」


カラ松神父とおそ松さんが一体何の話をしているのか全くわからない。多分私のことなんだろうけど、私無実。何にも悪いことしてない。


「なまえちゃん」

「え、はい?」

「また遊びに来るね」


ニッコリ笑って空気に溶けるように消えていったおそ松さんに呆然。え、ちょっと待って。マジックにしては高度過ぎやしないですか。
その後、休憩どころかカラ松神父とトド松さんによるお祓いを受けさせられることになった。


「何とか消えはしたけど、残りカスはついてるなぁ…」

「こればっかりは仕方ない…。なまえ、もう二度とロザリオを手放さないでくれ」

「あ、はい」


二人が何故お祓いをしてきたのかはよく分からなかったけど、とにかくそう念押しされれば頷くしかできない。その日からトド松さんかカラ松神父のどちらかが必ず行動を共にするようになった。


「あー!痕消えてんじゃん!って、痛っ!痛い!」

「消えろ、帰れ、姿を見せるな」

「なまえちゃん、あっち行ってよっか」

「あ、はい」


頻繁に姿を見せるようになったおそ松さんに、カラ松神父が問答無用で聖水を投げている。聖水を上手いこと避けているおそ松さんを見ながらトド松さんに聞いてみた。そしたら、


「うん。おそ松は悪魔だよ。それも結構上級の」


だから気をつけてねと言うトド松さんに大人しく頷きながら、変な人に目をつけられたなぁとこちらをチラチラと伺ってくるおそ松さんに小さく手を振ってため息をついた。


2016/01/29