■ 星のマスクを外したい
そうっと後ろから近付いて、背伸びをしてゆっくりとその黄色い天体に手を伸ばす。ふひひ、リクと喧嘩ごしに言葉を交わしている星は隙だらけだ。背後で私と同じように息を潜めている村長たちの視線を背に、私はその天体を掴んだ。
「そぉっ……い」
勢いよく引っこ抜こうとした瞬間にガッと両手を捕まれて、合わせた掛け声は尻すぼみした。咄嗟に振り払おうとした腕はガッチリと固められていて。あ、これヤバイ奴だと助けを求めようとして背後を振り返るも、そこには初めからそうだったかの様に誰もいなかった。逃げやがった!
こうなったらリクに助けてもらおうと首を戻せば、リクは青ざめた顔をしてぶんぶん首を降っている。え、待って助けて。
ゆっくりとこちらを振り返る星は私の腕を離さず、キチンと持ち替えてあっという間にご対面。
「なぁにしてんだコルァ」
あら素敵なお顔!なんて言える雰囲気じゃなかったよ。リクがそっと顔を背けたのが見えた。
あれよあれよという間に連れて行かれた先は星の城でもあるトレーラーハウスで、内心ガクブル状態のまま放り込まれた。慈悲もなく扉は閉まり、私は恐怖心から無意識の内に正座して膝の上でつくった握り拳を見つめる。何も言わない星が超怖い。
「……あの、すんませんした」
「……」
「いや、あの、ちょっと皆も星の素顔が気になったっていうから…その、」
「……」
「魔が差したっていうか……えっと、ごめんなさい」
結局私から謝罪の言葉を述べる。深々と、そりゃもう土下座に見えるような格好でだ。星に怒られるくらいならこの際土下座でも何でもしてやる。
ゴソゴソと何やら物音がしたけど気にせず黙ってそのままでいたら、深いため息が星の家にこだました。
「なまえ、顔上げろ」
「……わぁ、久しぶりに見た」
お望み通りに顔を上げたらマスクを外した星がそこにいて、思わず破顔して慌ててきゅっと口元を引き締める。赤みがかった茶髪の美形とコンビニ店員が何時だったか言っていたよなぁ、皆信じてないみたいだったけど星はイケメンだ。
呆れたような顔をした星が両腕を広げたので行為に甘えて飛び込んだ。しっかりと抱き留めてくれる星カッコイイ。
「別にな、マスクは外してもいいんだぜ?村長みたいに隠してるわけでもねぇし」
「え、そうなの?」
「おう。でも困るのはなまえの方だからな?」
「んんん?何で?」
星の言葉に体を離して首を傾げる。その角度のままキスされたから星は厭らしい奴だ。気恥ずかしくなって星の胸板に顔を押し付ければカラカラと笑われた。
「だってお前、俺のことイケメンだと思ってんだろ?」
「なるほど、ダメだ。星はずっとマスク付けてて」
星のイケメンさは女の子がほうっておくわけがない。ダメダメそんなの。星は私のなんだ。誰にもくれてやるものか。そんな思いを込めてぎゅうっと強く星に抱きつけば、分かってくれたのか優しく頭を撫でてくれた。
「星がほかの女の子のとこに行ったら私も浮気してやるんだ」
「たとえば?」
「……えっ、と…」
考えてもパッと出てこないのが困ったところだ。考え込んでいたら、星がくつくつと喉で笑うのが聞こえてチクショウと内心悪態をつく。そうですそうです、私は今星しか考えられないぐらいに星のこと大好きですー。
「なまえ」
優しく名前を呼んでくれる星がやっぱり大好きだと思った。それでもやはりさっきの事は許してくれないらしく、罰として星の気が済むまで頬を引っ張られた。
2015/12/18