■ 疲れたおそ松のアフターケア

「押し付け過ぎだっつーの!全員同じ年な上に、二十歳過ぎ!いい大人なんだからとやかく言われる筋合いねーよバカヤロー!」

「自分のお金で食べていけるようになってから言おうね」


夜の九時過ぎにチビ太から電話が来た。理由は後で話すからとにかく来て欲しいとの事。どうせ碌でもないことなんだろうなと思いつつも、マフラーを巻いて目的の場所へと向かった。
カウンターの上で既に出来上がっている見慣れた赤いパーカー服の男を見て、嗚呼やっぱり碌でもない事だったと頭を抱えたくなった。叫ぶようにそう言ってお酒を煽ろうとしたおそ松からお酒を奪い取ってため息をこぼせば、困ったようにしていたチビ太の目が輝いた。


「ごめんチビ太、私でもどうにかできないかもしれない」

「バーロー、それをどうにかするために呼んだんじゃねぇか」

「私もここまで出来上がってるとは思わなかったから」

「俺だって止めたんだぜ!?」

「ならなんで取り上げなかったの…」


チビ太と話していると、グッと伸びてきた腕に慌てて顔をそちらに向ける。へにゃりと頬を真っ赤にさせて笑うおそ松に首を傾げた。


「俺をほっといてチビ太と浮気〜?ダメだってなまえ〜、俺と一緒に飲もうぜぇ?」

「もう終わり。チビ太、お勘定お願い」

「おう!」


用意されていたお勘定に目を通して深くため息をついた。払えもしないのに飲むなんて馬鹿以外の何者でもない。お金を置いて腕を肩に回しておそ松の体を支える。ああ、もう、ここからが長いのだ。


「え、お、おい!多いぞ!?」

「何言ってるの。どうせツケの分は引いてるんでしょ。それじゃ足りないと思うけど、前の分ぐらいは払えてると思うから」

「…かっけェなぁなまえ。ンなことしてるとそいつらに付け入れられるぞ?」

「んー、ちゃんと考えてるから平気」


軽く手を振っておそ松の体を支え直す。ああもうちゃんと立って欲しい、切実にそう思う。せめて全体重をかけてこないでほしい。


「おそ松、今日はどうしたの?」

「……母さんにお前がしっかりしなきゃ駄目だろって言われてさぁ」

「うん」

「俺ら六つ子だよ?しかも性格は似通ってるクズだよ?しっかりって何だよ。仮に、もしも俺がちゃんとした社会人になった所でアイツらが変わるかっつーの!」


どうやら松代さんに言われた言葉に腹を立てたようだった。おそらく、お兄ちゃんなんだからしっかりしてちょうだいみたいな事を。弟を持つ兄は大変だ。
ブツブツと愚痴り続けるおそ松の背中を宥めるように撫でながらゆっくりと帰り道を歩く。興奮気味のおそ松を落ち着かせるというのも私の仕事のうちの一つで、彼の家に着くまでに終わらせなければならない。


「おそ松」

「大体俺だけに言うのはおかしいと思う!」

「おそ松ー」

「全員同じ年だし、生まれた日も同じだし、六人まとめて言えばいいじゃん!」

「おそ松、」

「なに!?」


未だブツブツと呟くというより叫び散らすおそ松がグリンッと首をこちらに向ける。私がそれに少し背伸びして頬にキスしてやれば、騒ぎ声は一気に消えてなくなる。


「お疲れ様」

「…ん」


途端に黙りこくったおそ松に小さく笑った。不意打ちには弱いらしい彼に気づいたのはつい最近のことで、それでも彼が何も言わないのは酔が覚めた頃には忘れているからだろう。まあ、それはそれで私も平然と過ごせるから助かるんだけど。


「なまえー」

「んー?」

「……、…もう一杯だけダメ?」

「明日になって後悔するのはおそ松だよ。それでもいいなら家で飲みなさい」


見えてきたおそ松の家の前で、黄色のパーカーを着た十四松が見えた。彼もこちらに気付いたようで手を大きく降って駆け寄ってくる。ありがたい、そろそろ私の腕も限界を迎えていた所だった。


「ほら、お迎えだよおそ松」

「んー」

「なまえちゃんありがと!おそ松兄さんおかえ、うわ!酒臭っ!」

「んだとぉ?酒臭いのは仕方ねぇだろぉ」


十四松の腕におそ松を預けて、ぎゅっと眉を寄せて鼻を抑える十四松に笑った。さて、と私も自分の帰路へと着こうとして腕を掴まれて引き寄せられる。え、と声を出そうとして耳元に寄せられた熱のこもった吐息に、悲鳴が漏れそうになるのを必死に抑えた。


「いつもありがとな」


呟くような小さな声は十四松には聞こえなかったらしく「何してんの?」と首を傾げて私たちを見下ろしていた。対する私は唖然としていて、十四松に身体を預けるおそ松はニィッと口元に笑みを浮かべる。いやいやそんなまさかと信じられない気持ちでいっぱいの中、それでも生まれた一つの仮定に私は穴があったら入りたい程の羞恥を覚えた。


2015/12/19