■ 伊達に縛られる
「え、何でいるの?」
目を開けたら政宗がいた。どこにって真上に。私に馬乗りになって何か頬を赤くしてた。ちょっと待って息遣い荒いよ、何これどういう状況?
「Good morning、なまえ」
「おはよう政宗。何してるの」
「縛ってる」
「何してんの!?」
見れば、私の両腕は服ごとまとめられて縛られていた。いや、何してんの!?急いで腹筋に力を入れて上体を起き上がらせれば、ちょっと焦ったように後ろにずれる政宗。私の膝に腰を落ち着けるな馬鹿たれ。
「何これ何なの何がしたいの」
「あ、なまえそんな動かすなって。傷ついちまうぞ」
「縛ったのは政宗でしょうが」
ぐりぐりと動かすもかなり厳重に巻かれている紐は緩まることはない。恐らく傷がつかないように配慮して服の上から縛ったんだろうけど、やったのは政宗でしょうが。何でこんなことをしたのかと政宗を見やれば、少しだけ不満そうな顔で目を逸らす。アイコンタクトだけで思っていることが伝わるだなんて、こんな状況じゃなかったら嬉しかったのになぁ。
「だって縛っとかねぇとお前仕事行くだろ」
「……当たり前でしょ?何でそんな不満そうな顔してんの?働かざる者食うべからずって言葉があるでしょ?働いて貰ったお金ないとご飯も買えないんだよ?」
何を当たり前のことを、と縛られた両腕をぐりぐりと上下左右に動かしながら言えば、政宗はバッと顔を上げて真っ赤な顔で叫んだ。
「だ、だから!俺が養うからなまえは俺の家にずっと居りゃいーじゃねぇか!」
「政宗の家に居るのはとても魅力的な誘いだけど、小十郎さんに家事とか全部取られる私の気持ちわかる?女としての威厳とかがなくなりそうになるんだよ?」
「Ah?何も問題ねぇじゃねーか」
「話聞いてた!?働かざる者食うべからず!」
「俺の傍に居るのが仕事だろ」
私の膝の上でドヤ顔してる政宗に心底頭を抱えたくなった。両腕が塞がってるから無理だけど。仕事行けないどうしようと両腕を見下ろしていれば、ちなみにと政宗が少し愉快気な口調で言った。
「なまえン所の会社には、俺の会社になまえを引き抜きたいって電話した」
「何勝手なことしてんの!?」
「これでどこにも行かなくて済むななまえ!」
子供のように笑う政宗には悪いが、その頭にゴスッと腕を振り下ろした。つまり縛られた両手でだ。鈍い音が響いた。
「なぁ、何でそんな怒るんだよ。別に悪いことじゃねぇだろ?」
「いや、悪いことだよ。私の意見も聞かないで独断で仕事やめさせて、挙句の果てに両腕縛ってる事のどこら辺に悪くない要素があるのか逆に聞きたいよ」
「悪いことだったのか?」
「やだ、無自覚!?というか私たち付き合ってはいるけど、夫婦でもないでしょうが。主婦にでもならない限り、仕事はしたいんだけど」
「じゃあ結婚しようぜなまえ」
サラッと散歩行こうぜくらいの軽さで言われた。呆気に取られて政宗を見れば、真っ赤な顔をした政宗がうっすらとその顔に汗を滲ませて、私の両手を握っていた。
「なまえのこと一生面倒みるつもりだし、お前が欲しがるモンも全部俺がくれてやる。嬉しいことあったんなら俺も一緒に笑ってやる、悲しいことがあったんなら一緒に泣いてやる、辛いことがあったんならグズグズになるまで甘やかしてやる、目一杯愛して欲しいんなら朝から晩まで好きだって言ってやる。でも俺から離れたりしたら今みたいに縛るし、無体働いちまうかもしんねぇけど、絶対ェ逃がしはしねぇから。だから、結婚しようぜ」
後半恐ろしいことを言われたけど、嗚呼これは逃げられないんだなと諦めに似た感情を覚えた。真っ赤な顔はそのままで、私の顔を食い入るように見つめてくる政宗にため息をついて膝から退くように言った。私の膝もそろそろ限界である。察した政宗が大人しく従って座り直したのを確認してから、その肩に額を押し付けた。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
「!」
ぎゅうぎゅう抱きしめてくる政宗の好きなようにさせてあげながら、私は縛られたままの両腕を見下ろして本日二度目のため息をついた。
2015/12/12