■ 冬にカラ松と肉まん食べる
冬場のコンビニに売られている肉まんと言うものはどうしてこうも食欲をそそるのだろうか。非常に厄介な代物である。
「肉まんとあんまんの二つで360円でーす」
だが買う。買わないはずがなかった。気だるそうな店員の声に小銭を出して紙袋を受け取る。底の方は熱々で火傷してしまうから、できるだけ上の方を持って抱える。寒空の下、早く帰ろうと帰り道を急いでいると見慣れた背中を見つけた。
「フッ、ようやく来たかカラ松girl」
「カラ松だぁ」
「っ、あ、う、なまえか」
こっちを振り向いたカラ松はサングラスをしていて、はてと首を傾げる。珍しい。私が見る限りでは基本的にサングラスをしている姿を見る方が稀なのだ。まじまじと見ようとしたら、素早い動作でサングラスが胸ポケットへと仕舞われた。
「おお?何で外すの?」
「いや、気にするな」
「んん、じゃあ気にしない」
覗き込めば視線を逸らされる。これもいつものことなので気にせずにじぃっとカラ松を見つめる。わあ、真っ赤だ。
「カラ松寒いでしょ?鼻とほっぺた真っ赤だよ」
「フッ、これぐらいで丁度いいさ」
「震えてるよ」
強がりなところは相変わらずだ。仕方ないので自分のマフラーをカラ松に巻き付けてやる。一段と顔が真っ赤になった。そんなに寒かったのかぁ。
「ちょ、なまえも寒いだろ?」
「んーん、私は手袋してるから寒くないの」
「いや、鼻が赤いぞ」
「へへ、じゃあカラ松と一緒だねぇ」
お揃いだぞと笑って言えばカラ松が顔を手で覆った。んんん?何かおかしいことを言ったかな。あ、呆れたとかそんなのかな。私馬鹿だから分かんないや、ごめんね。
「そーだ。肉まんとあんまんどっちが好き?」
「は?」
「肉まんとあんまん」
「あ、あぁ。肉まんだな」
「じゃあこれあげる」
手袋を外して肉まんを押し付ければ、取らざるを得ないカラ松は動揺しながらも肉まんを手に取った。紙袋の中から残りのあんまんを取り出して、口に運ぶ。うん、甘くてうまい!
口に広がる甘さににへにへとだらしなく笑って、カラ松にも食べろと勧めれば、肉まん目掛けてがぶりと一口。おお、口おっきぃなカラ松。
「……美味い」
「うん!美味しいねぇ」
「……なまえ、付いてるぞ」
「むお、マジでか」
指さされた方を払い落とせば、まだ付いているとカラ松が言う。どんだけがっついてたんだ。私事ながら呆れてしまった。でもあんまんが美味しすぎるのが悪いと思うんだ。
ペシペシとほっぺたに付いた食べかすを払い落としていれば、その手をサッと握られる。カラ松を見やれば、思いのほか近かった距離に反射的に目をぎゅっと閉じた。頬に感じた熱にビックリして目を開けると、さっきとは比べ物にならないほど真っ赤な顔をしたカラ松の顔が間近にあった。
「わ、悪い。でも何か体が勝手に動いて…」
「……」
「………なまえ?」
体が勝手に動いたってなんだ。と問い詰めようとしたけど、私の口は思うように動かずパクパクと開閉するだけで。何だこれ顔が熱い。病気かな?とりあえずカラ松の顔がまともに見られない。どうしよう。
2015/12/05
ホントは唇にしたかったと伝えれば、彼女はどんな顔をするだろう