■ 甘ったるいグリード
「なまえ、ちょっと脱げ」
「…ん?え?何て?」
家でゆったりとソファーに座って寛ぐグリードさんは彼の足の間(つまり床)で雑誌を広げていた私を見下ろしてそう言った。言葉の意味が理解できない私がグリードを見上げれば、私の髪を一房手に掬いながら早くしろと言わんばかりに赤い瞳を細めてみせた。
「脱げ」
「……いや、いやいやいや、グリードさん?ちょっと唐突すぎじゃないですか?」
「あ?そうかぁ?」
「何不思議そうに首かしげてんの可愛いなもう大好き」
「ああ、俺も好きだ」
「それでねグリードさん。私、馬鹿だからちょっと理解できなかった。何でそうなったのかを分かるように説明してください」
「なまえが悪い」
「予想を斜め上に行く答えだった」
何とも器用にグリードさんは私の髪を三つ編みに纏めあげていく。というかグリードさん、それ答えになってないよ。説明とは程遠かったよ。私が悪いの?何で?何にも悪い事してないと思うんだけど。
「私もしかしてグリードさんに不愉快なことしましたか」
「怪我したろ」
「怪我?…ああ、たいしたことないですけど」
何を隠そう…いや隠す程じゃないんですけど。私は一般市民を護る警察なのですドヤァ。それもちょっと優秀なんですドドヤァ。
つい先日のことで立てこもり事件があったんですけど、それはまあ見事にロイ・マスタング大佐が犯人を部屋から炙り出したんです。言葉の通り部屋に火をつけて炙り出しました。すごいねこの人、強行だもん。犯人より犯人だったよ。
もちろん人質は全員無事だったんですけど犯人が逃走しやがろうとしまして、私はさせるかと犯人の前に立って見事に捕まえました。そのために私のお腹は犠牲になったのです。ぶっすりいきましたよね、かなり痛かった。大佐とリザさんにはしこたま怒られたけど、このようにグリードさんと過ごすお休みが貰えたので結果オーライですイエイ。
「おら、何がたいしたことねぇだ馬鹿」
「いった!ちょ、髪の毛引っ張らないで!普通に痛い!」
「ケーサツやってんだから傷付くのは分かってっけどなぁ、そこはまあ、お前の上司を殺したい程憎いけど分かってやったけどなぁ」
「どんだけ大佐のこと嫌いなんでいたたたたたたた!」
「そりゃ女に、しかも俺の女に傷付けられたんだしよぉ、殺したくもなるわ」
「アレは大佐が悪いんじゃなく、犯人が悪いたい!」
「そいつも許せねぇ。が、俺が許せねぇのはその腹の傷を野郎に見せたってとこだよ」
グイッと三つ編みを引っ張られて頭は後ろに傾く。
ソファーに乗り上げた感覚がした後にグリードさんがぐっと腰を曲げて顔を近付けてきた。何これ恥ずかしい。何か慣れない角度だから恥ずかしい!でもグリードさんカッコイイ!私の彼氏がこんなにカッコイイはずは勿論ある!
「あのですねグリードさん、それはなんてゆーか不可抗力」
「女に見せたってんならまだ許してやれた。だが男はナシだ。却下だ許さねぇ」
「あの、いや、でも」
「なまえ、お前俺の性分がどんなもんかは理解してるよな?」
強欲。それはグリードさんの名前と同じ言葉だ。そしてその言葉の通りに彼はとても欲深い人間である。お金も名誉も欲しがる彼が正直私に執着している理由があまり分からないけど、グリードさんは欲しがりさんでその分独占欲も凄まじいのである。身をもって体験してるからそこは割愛。つまりはこういう事なんだろうか。
「ヤキモチです?」
「………」
「!?」
無言は肯定と言わんばかりにキスされた。真っ赤になった私を見下ろして笑みを浮かべたグリードさんは私の目を覗き込むように見ながら口を開く。
「他の野郎に見せたんだから俺にも見せろよ。余すとこなく全部」
「……私の心臓が破裂しそうなんでやめてくれたら嬉しいです」
「なまえが泣く顔も、羞恥に震える顔も、絶望する顔も、笑う顔も、全部俺のもんなんだから別に嫌がる理由もねぇよな?」
「あ、これもしかしなくても拒否権無いですね?」
引き攣る口元をそのままにグリードさんを見上げていれば満足そうに笑みを浮かべてもう一度キスしてきた。ああもう仕方ない。こうなったらグリードさんが満足するまで付き合ってやる。伊達にグリードさんの彼女続けてませんから!
「その代わりにグリードさんも脱いでくださいね」
「おっ、積極的だなぁ」
「やられっぱなしは好きじゃないです」
「じゃあ脱がしてやるから、脱がしてくれ」
「馬鹿じゃないの!?」
「これはまだか。慣れろよなまえ。どうせ丸裸になんだろ」
「もっと言葉を選んでください!」
真っ赤になっている私の頬にキスを落として抱き上げたグリードさんは、そのまま私を膝の上に下ろす。私の目線より少し下にある赤い瞳と目が合えば、歯を見せて笑ったグリードさんがガブリと私の首筋に噛み付いた。
2015/08/13