■ 興奮さめやらぬゾロ

掬い上げられるように重なった唇。唐突に咥内に入ってきた分厚く熱い舌に、何が起こったのか認識した頭はすぐに真っ白になった。息をつく間もなく舌を絡め取られて、離れようともがく私の両腕をあっさりと捕まえて余計な事をするなと言わんばかりに舌に噛み付かれた。もはや抵抗もなにも成す術がなく、力の抜けた体はその逞しい腕で支えられた。


「ば、しょを……考えろ!っ、バカヤロー!」


安心できるその胸板に顔を押し付けながら私は消え入るような声で叫んだ。ああ、周りの視線が痛い…。
ハローハロー。今日の海も変わらず綺麗で、お昼寝が最高に気持ちいいだろうその時間帯。飽きもせず海賊を取り締まる海軍に見つかって、戦闘員が全員出動で撃退していた。ちなみに私も戦闘員の一人で能力者という事もあってか、賞金首は8500万ベリーである。どんな実を食べたとかは皆様のお好きなように解釈してくれて構わない。とりあえず風を使った能力であるとだけ伝えておこう。
ほとんどの海兵を薙ぎ倒していくウチのトップ3を一瞥して、私はナミとウソップとチョッパーの援護に回っていた。「うりゃぁぁぁ!!!」と言うルフィの掛け声と鈍く重い殴打音と共に戦闘は終了。海兵を海へと放り投げるフランキーやブルック、怪我をしていないかとナミへといち早く駆け寄るサンジの様子に笑っていたら、私の顔を覆うように影ができた。そうして冒頭に至る。
いや、何でだよ。一瞬の静寂の後で、サンジの怒鳴り声が聞こえてロビンがあらあらと口に手を当てて笑う。えげつない程の羞恥心に顔を上げられない。今までこんなこと無かったのに。真っ白だった頭がしっかりと働き出した時だった。


「場所を変えりゃ問題ねーな?」

「……は?」


言われた言葉に反応できずに変な声を上げた。引き止めるより早く、私を軽々とその腕に抱き上げたゾロに顔が真っ青になるのがわかった。ヤバイ、これはヤバイ。何がヤバイっていつもより口角を上げて楽しげに笑っているゾロがヤバイ。くっそ、こんな時でもカッコイイな!贔屓です、ごめんなさい。


「なまえ」

「やだやだやだ、何でこんないきなりなの。ていうかいつもこんな事しないじゃん。何なのもう」

「あー、何か興奮した」

「やめて!」


口に出すなバカヤロー!今日のゾロおかしい!さっきまで海兵相手に戦ってたじゃん!どこに興奮する要素がありましたか!?
何てことを口に出せないまま移動した先はチョッパーの城である医療室で、ベッドに降ろされそのまま啄むようにキスされる。こうなってしまえば私に勝ち目はない。息をするのに必死で、それでも口を大きく開けば舌が入ってくるのだから堪らない。もし呼吸困難で死んでしまったらゾロのせいだ。


「なまえ…、息しろ」

「っ、手加減…!」

「断る」


心底楽しそうに意地悪く笑うゾロがそれはもう男前だったから乗せられてしまおうかと思ったけど、息苦しさには耐えられない。キスされる前にその胸ぐらを掴んで引き倒せば、予想外だったのか呆気なく形勢逆転。こうも上手くいくなんて、ちょっぴり優越感。


「…へへー。鍛錬不足め」

「………」

「まだまだ修行が足りませんなぁ、ゾロ君」

「…おー、そうだな」


見下ろした先でニヤリと笑うゾロに、先程までの優越感は掻き消える。腰に伸びてきた熱を持った手のひらにぞわりと背筋が寒くなった。


「なまえ」

「……はい」

「お前が教えてくれよ」

「なんっ」

「鍛錬不足の俺に、お前が教えてくれよ」


思わず言葉を失えば、ゾロは酷く愉快そうに声を上げて笑った。


2015/11/20
余計な発言はしない方がいいと肝に銘じた