■ 冷たいキッドにだる絡みする
キッドさんが冷たい。いや物理的な冷たさとかそんなんじゃないけど、いやでもキッドさん冷え性だからなぁ、間違ってはないんだけど手とか足とかすっごい冷たいんだよなぁ。冬場のキッドさんは凶器になると思うよ、マジで。いや、違う。そんな話をしてるんじゃない。
「キッドさーん?」
「……、後でな」
このようにキッドさんの態度が冷たいのだ。なんだってんだコイツは!呼び出した本人が本に夢中になるって何なの。そりゃ遅れた私が悪いけども。だってキラーさんに頼まれ事されてたんだし、仕方ないじゃないか。待ってる間が暇だから本読み始めたんだろうけど、やってきた私を放置しておくのはダメだと思う。海賊だからって何でもやっていいって訳じゃないぞバカ!
「キッドさんキッドさんキッドさん!」
「……ああ」
本から目を離さずに答えるキッドさんにイライラする。ちくしょう、本に私が勝てないなんて。いつもだったらちょっと呆れた感じに笑ってぎゅーってしてくれるのに。何かもうムッときたからキッドさんの背中に回って抱きついた。2m以上あるキッドさんには手が届かないから椅子に座っててくれてよかったと思う。コートのもふもふした毛皮が口の中にちょっと入って、それにもイラッときた。ヤバイ私重症だ。
「…なまえ」
「!はい!」
「……前こい」
「前?」
相変わらず本から目は離さなかったけど声をかけられたってことが嬉しかった私は、急いでキッドさんの要望通りに前へと移動する。瞬時に腕を引かれて座らされたのはキッドさんの足の間で、驚く間もなく目の前で開かれる本。
今は本を読みたいと。なるほど。私は相手にならないと。バーカバーカこのチューリップ頭!口にはせずに心の内に秘めておく。言ったらきっと泣くまで頬を引っ張られる気がする。しかも割と痛いんだ、コレが。
「結局ご要件は何だったんです?」
「…あー、……特に無ぇな」
「なんと、なら私は何のために呼ばれたんです?」
「……ああ」
「答えてくださいよー。分かんないですよー」
私だったらこんな絡み方されたらキレるね。しかも読書中に。でも止めてやろうという気は一切起きない。こればっかりはキッドさんが悪いと思うんだ。
適当な相槌にまたイラッとしながら、ぐいぐいとコートを引っ張る。気にせずパラリと捲られる頁に内心舌打ち。この野郎、キッドさんを独り占めしやがって許せん。こんな本しわしわになっちまえばいいんだ!嘘です。ごめんなさい。本には私も助けられてるから文句なんて言えない。夜の読書最高です本当に。
「なまえ」
「はーい、何です何ですキッドさん。今なら何でも答えちゃいますよー。温厚で優しいなまえさんがキッドさんのご質問や問いかけに何でも答えちゃいます!ただし一回まで。何も無いならキラーさんのところに戻りますからねー」
「今日は俺とここにいろ」
質問でも何でもなかった。自分でも鬱陶しい言い方だなと思っていた矢先、私はハッキリとしたキッドさんの口調に驚いてその顔を見上げる。こちらを見下ろす瞳がそこにあって、呆れたような顔で小さく笑っていた。
「分かったか?」
「……アイアイキャプテン」
「そりゃ違う船員の言葉だろうが」
軽い力で小突かれ、優しい声色でそう言われて。
なんだかさっきまでのイライラは呆気なくも吹っ飛んでしまった。キッドさんやっぱり凄い。
2015/11/16