■ 金時を預かり、銀時と出会した

「なまえ、何かする事あるか?」

「ん、んー。今のところは特に…、うん?」


目の前のノートパソコンから目を離さずにそう言えば、優しい力で頭に手を置かれた。顔を上げてその青い瞳を見れば、少し満足そうに笑った後で呆れた表情を作り出す。


「朝から水分とってないだろ。何がいい?」

「……水」

「おう」


小さく頷き背を向ける金時に、私は限りなく小さなため息をこぼしてキーを押す。
金の刺繍を施した真っ黒な着流しに身を包む坂田金時という男は、かぶき町に住む坂田銀時の代用リーダーで本来は【超合金製完全体坂田銀時弐号機】という。長いので金時と割愛させて頂く。一度は銀時に成り代わろうとしていたが、なんやかんやあって更生したらしい。
そんな金時が何故私の家で、私の言葉に従順に頷いて水を取りに行ったのかというと簡単な話だ。源外のじい様に押し付けられたのだ。今だけ預かっておいてくれと泣き言を言われたので仕方なく預かったのであるが、源外のじい様が一向に迎えに来ない。どういう事だ。


「なまえー、冷蔵庫もう何にもねぇぞ」

「あー、うん。別に2、3日食べなくても平気だから」

「女がンな事言うなって。ほら、買い物行こーぜ」

「あぅぅ…」


伸びてきた両腕が脇へと滑り込み、座っていた体制からぷらりと足が地面を離れて宙を浮く。流石機械だ。私の重さなんてへでもないってか。不満げに少し高い位置から金時を見下ろしていれば、ジィッとこちらを見る男は何を思ったのかぎゅうっと抱き締めてくる。力加減はしているようで、私の骨が変な音をたてることはなかった。
金時は銀時と違ってスキンシップが過多だ。初めは驚いたけれど、今では慣れたものである。大きな犬に懐かれていると思えばどうってことない。キャバクラで働いていた時よりも軽いものだから気にならない。


「あ、卵。卵買わないと」

「米とパンならどっちよ?」

「米…、あー、パンかも?」

「パンな。じゃあ水と烏龍茶なら」

「水」


カゴを持つ金時の着流しを掴みながら歩く。ほいほいとカゴに入っていく食材を見ながらチラリと金時を見れば、何が楽しいのかいつもより口角を上げて水を手に取っている。チクショウ、機械のくせにカッコイイな。その金髪毟ってやろうか。恨みがましくその顔を見ていれば、流石に気付いたのか一度きょとりとした顔をして、次いでニヤニヤと口角を緩めた。


「なになに?なまえもようやく俺の魅力に気付いた?」

「馬鹿言ってないで卵買いに行くよ」

「ツレねーの」


言葉は不満げだが、楽しそうに笑っているからどうしようもない。卵をカゴに入れて、糖分摂取のためにチョコレートでも買おうとコーナーへと足を進めると、これまた見慣れた銀髪に出会した。


「あれ、なまえちゃん?え?お前洗脳されてる?え?また?また俺のこと誰ですかとか冷めた目で言っちゃう?また始めっから俺の婚約者ですから説明しないといけない感じ?」

「誰が誰の婚約者だオリジナル。洗脳はしてねぇし、お前の役柄には興味ねぇっつっただろうが。なまえはお前のモンじゃねェ、俺のだ」

「いや、私のものは私のものですから。銀時も金時も落ち着いてくれないですか」


めんどくさい事になった。銀時と金時はできる限り会わせないつもりだったのに。混乱してしまうから。だから源外のじい様には手早く引き取ってもらいたかったのに。この際両方引き取ってもらおうかな。とりあえずどういう事だと赤い目で訴えてくる銀時に一から説明した。金時は私の肩へとしなだれ掛かっている。重いからやめてほしい。


「──それで?源外のじいさんがいつまで経っても迎えに来ねぇから同棲しちゃってんの?何それ羨ましい。代われよ金髪」

「だが断る」

「同棲ってほどでも…。金時も何も言わないし、私もそんなに気にしてないし」

「あ、今最高に同情した」

「うっせェ。何も出来てねぇ兄弟よりマシだわ」

「あぁん?」


いがみ合う二人を交互に見て、金時の持つカゴにチョコレートを放り込んだ。とりあえずこれで買い物は終了。お店の迷惑になるので二人の着流しを掴み、会計を済ませてさっさとその場を後にした。ちなみにレジに並んでいる間も言い合いは続いてた。いい歳した大人が何やってんの。


「なまえ、なまえ」

「なまえは俺と金髪どっちがいい」

「土方さん」

「「え」」

「高収入な上にイケメン。あ、そうなれば坂本さんもそうだっけ?」


というか銀時以外の人はほとんど高収入に見えて仕方ないなんてのは言葉にしない。私は大人だからな!
私が内心ドヤ顔を決めている中、二人がどんな顔をしているかなんて想像すらしていなかった。私の発言によって土方さんが二人の金銀のチンピラに襲撃されたと知るのは今回の後日談であり、オチである。


2015/10/25