■ 記憶を引き継いだグリード

「あ、わり」

「あ、すみません」


肩がぶつかった。互いに顔を見ながら軽く頭を下げて、どこの国の子だろうと思いながら通り過ぎた。過ぎようとした。


「……あの?」

「…………」


腕を掴まれ釣り目がちな瞳を見開かせてこちらを凝視してくる男の子に首を傾げる。どこかで会ったことがあるだろうか。いや、ないな。私はセントラルとダブリスとリオールにしか行ったことはない。
東の国には行ったことないなぁ。ご飯が美味しいなら是非とも行ってみたい。


「ちょ、痛い痛い痛い痛い!」

「ああ、悪い。…やっぱ思い出せねぇか?」

「え、ナンパ?これナンパ?」

「あ?ちょっと目ェ離した隙に男作ったのかお前?」

「痛い痛い痛い痛い!!!」


ギリギリと腕を掴む力が強くなる。マジで腕がちぎられるんじゃないかと思った途端に力は緩まり、目の前の男の子は大きく、そしてあからさまなため息をこぼした。おかしい、私が被害者のはずなのに。
というか馴れ馴れしいな!なんだこの子!まるでどっかのグリードさんみたいじゃないか!


「ちょっと待って少年。落ち着こう。私は君と初対面のはずだOK?」

「お前は知らなくても俺は知ってんだよ。さっさと思い出せ馬鹿なまえ」

「思い出してもらう人の態度じゃないよね!明らかに上からだよね!おかしい!私の方が歳上なのに!」


このジャイアニズム!バカヤロー!と内心罵りながらも思い出せと言われたので素直に考えようと思う。ジッとその顔を見つめて思い出そうとするも、どう見ても初対面である。ヤバイ、これで思い出せないとか言ったら今度こそ腕をちぎられそうだ。
背中に冷や汗が流れ落ちるのを感じながら、もう一度よく少年の顔を見つめる。と、何やらソワソワし始め視線がキョロキョロと右往左往するようになった。既視感。どっかで見たことある気がする。


「あの、ちょっと…。こっち見てくれる?」

「は?ちゃんと見てんだろ」

「いやあの、目があってないんだけど。どこ見てる?私はそんな右の方にいないよ。こっち、声のする方!」

「うるせェ、騒ぐな馬鹿」


うーん。なんかこんなやり取り前にもしたような気がせんでもない。どこだったか。確かダブリスだったか?いや、セントラルだったかな。


「…あ、え?…いや……いやいやいやいや…」

「……」

「え?整形したのグリードさん?」

「…今更だけどよ、気付くなまえもスゲェな」


緩く掴まれていた腕を離され、呆れたように、でもどこか嬉しそうな顔をして私を見てくる少年。基グリードさんを見た。いやいや、ちょっと。顔変わってるとかそういう問題じゃない。明らかに別人じゃないか。


「え?なんで?若返ったんです?」

「あー、待て。…………肉体は15歳だな」

「15!?」

「なーんか新鮮だよなぁ。こんだけ若い体も」


いや話についていけないッス、グリードさん!
まじまじと自身の体を見下ろして、顔を上げたグリードさん(仮)は私と目が合うとニッと歯を見せて笑う。その顔は、なるほど。まさにグリードさんがよくする笑みととてもよく似ていた。


2015/10/05
ありえないなんてことはありえない