■ モテたら赤葦が拗ねた

可愛い女の子だった。ふわふわとした肌触りの良さそうな髪に、パッチリとした大きな丸い瞳。
顔を真っ赤にさせて、両手を胸の前で組んで、目を潤ませながらあちこちに視線が飛んでいく。端正な顔立ちの彼女は、誰が見ても思わず「可愛い」と言ってしまえる女の子であった。


「あのっ、えっと…!」

「……うん」

「そ、その…!」


だからってこれはあまりにも酷すぎやしないか神様とやら。


「付き合ってください!」

「どうしてこうなった」


こんなに可愛い女の子が、女である私に告白するだなんてこの世界に存在すると言われている神様は意地悪である。
先日の文化祭で私のクラスは劇をしたのだ。男女逆転シンデレラ、その王子役が私。もうお分かりの方もいるんじゃないだろうか。王子役の私は、私が思う以上にハマっていたらしく、このように女の子からの告白や黄色い声が度々上がる。勘弁してくれ。
丁寧に、且つ傷つけないように言葉を選びながらやんわりとお断りをしてその背中を見送った。


「あれ、赤葦?」

「……いつものやつ?」

「あー、うん。まあね」


鞄を取りに教室へと戻れば、部活のハズの赤葦京治が待っていた。赤葦の言葉に遠い目をして返せば、ふいっと顔を背けられた。あれ、拗ねてる?


「赤葦…?拗ねてんの?」

「拗ねてない」

「あーかーあーし」

「木兎さんみたいな呼び方やめろ」


ちょっと強く言われてしまったら止めざるを得ないじゃないか。赤葦の前まで歩いていけば、じろりと見下ろされた。うわ、見下されてる感すごい。


「ねぇねぇ、赤葦」

「……なに」

「今日の昼休みねー、友達に新しいパンケーキのお店ができたって聞いたんだー」

「………」

「赤葦、一緒に行こーよ」


少しだけ赤葦の冷たそうな視線が和らいだ。あと少しだ。


「放課後デートしよう?」

「……場所は?分かってる?」

「うん。バッチリ!」


親指を立てて笑えば、赤葦もようやく笑ってくれた。小さくだけど、とっても綺麗な笑みである。さらりと私の鞄と自分の鞄を引っ掴んで、もう片方の手で私の空いている手を攫っていく赤葦は、私よりも何倍もカッコイイ男だ。


「赤葦、部活はいいの?」

「今日は体育館の壁の塗装があるから休みになった」

「そっか。じゃあいつもより赤葦と長く居れるねぇ」


へへっとはにかめば、赤葦が引く手の力が強くなった。照れてる所も可愛くて好きだよ赤葦!


2015/10/05