■ 両面宿儺による採点
艶のある髪、長い睫毛はくるんと上を向き、ルージュの似合う唇は色気を含んでいて。彼の隣に立つに相応しいという出立ちに、勝手に惨めな気持ちになった。
落ち込む私をみた野薔薇は、男の趣味が悪いとバッサリと切り捨てる。歯に衣着せぬ物言いは好感が持てるが、今だけは何か纏って欲しかった。急募、優しい慰め。
「宿儺の好みなんて虎杖でも知らないでしょ」
「……私も伏黒くんになれば、」
「あんな仏頂面になったらぶっ飛ばす。アンタはそのままで充分魅力あるわよ」
「野薔薇大好き」
「知ってる」
口角を上げて私の手を引いた野薔薇は、買い物行くわよと踊るように街に繰り出した。私に似合うコスメや服を選ぶ彼女は、コレ宿儺が好きそうと色々考えてくれていて、野薔薇は本当に女が惚れる女だなと思う。文句無しの十点。大好き。
「……なんか雰囲気変わったか?」
「え、そう?髪伸ばしてるからかな」
「いや、それだけじゃねぇけど」
伏黒くんはまじまじと私の顔を見、ゆっくりと足先から頭の天辺を見遣る。気恥ずかしくなりながら反応を待てば「綺麗になった」と表情を変えずに言われた。心臓がギュンした。教えて野薔薇、これがときめき?心の中の野薔薇は十点の札を上げて悔しそうな顔で頷いている。
「ふへへ、宿儺の好みになろうと思って」
「宿儺の?何でだ?」
首を傾げる彼に先日見かけた女性の話をしたら、伏黒くんは難しそうな顔で相槌を打ち「無理はするな」と背中を押してくれた。優しさの塊。大好き。
ルージュの口紅はまだ似合わない。少しピンクが強いそれを付ける。付けたことのない色はどことなく違和感があって、けれど新鮮な気分だ。
「お、見たことない服着てる」
「野薔薇と買い物した時に買ったの」
「前と全然印象違う!メイクも違う?」
少し背伸びした服装とメイクは虎杖くんにもすぐに気付かれた。興味深そうに見てくる虎杖くんに笑えば「笑顔は一緒」と彼も笑う。私より可愛いのでは。教えて野薔薇と伏黒くん、彼は天然誑し?心の中の二人は十点の札を上げながら神妙な顔で頷いた。
「隣に立つに相応しい女を目指してる」
「そっかー!うーん、どうしたもんかなー!」
声を上げて腕を組む虎杖くんに首を傾げれば「綺麗系も似合う」と親指を立ててくれた。虎杖くんは絶対恋泥棒してると思う。大好き。
自分でも少し無理をしてらと思った。けれどここまで手伝ってもらってお披露目しないのは心苦しいし、一言「似合う」と言われればそれで満足するつもりだった。
「……」
「…宿儺?」
「唆されでもしたか」
ゆるりと赤い瞳を細め、私の唇に指を滑らせる宿儺に目を瞬かせる。思わぬ反応だ。小さく首を横に振れば、疑るように顔を覗き込んでくる。やっぱり私には赤い口紅なんて似合わないし、宿儺はかっこいいし、二重の意味で恥ずかしい。
「……着替えてくる」
「マァ待て。折角だ、今日はそのままでいろ」
「いやでも、」
「俺の言うことが聞けんと?」
笑い声と共に長い爪が僅かに頬を引っ掻く。脅しにしては随分と優しい声色だ。大人しくその隣に並べば、宿儺は機嫌良く私の伸びた髪を梳く。
「小僧共から聞いた。俺のために健気なことだ」
「知っ…!?性格悪い!」
知ってて唆されたのだと気付く。羞恥と怒りが複雑に混ざり、けれど宿儺に敵うはずもないので子供のように顔を背けた。途端吹き出すような笑い声が聞こえ、眉間に皺は寄るばかりだ。一頻り笑った宿儺は、拗ねて背を向ける私を呼び。
「在るがままのお前で良い。俺は見て呉れだけで傍に置いたわけではない」
今日はもう口を聞かないと思っていたのに、そんなことを言われては完敗である。心の中の同期ズが信じられないと言わんばかりの顔で十点の札を上げていた。
両手で顔を覆い、絞り出すような声で「すき」と零せば、宿儺はまたカラカラと笑った。
2021/05/24