■ 疲れたのでラビに甘える
「ラビ!」
バンッと大きな音を立ててラビの部屋の扉を開いた。ブックマンは丁度居ないみたいだ。よかった。
一瞬驚いたように目を丸くさせて私を見上げるラビの奥の方には本の山がある。床に座り込んで本を読んでいたらしく、手元には開かれたままの本が一冊。
扉を開けたままの状態の私を見て、ラビは本を脇に置いて両腕を広げた。迷わず飛び込んだ。
「何かあったんさ?」
「……んん、疲れた」
「まぁたコムイが変な薬でも作ったんか」
「当たり。リーバー班長たちと一緒に取り上げてたの」
室長も真面目な時はそれはもう、ラビには劣るけどカッコイイ人なんだ。頼りになるし、周りをよく見ているし、エクソシストと科学班を始めとした各班のトップに立つに相応しい人である。
そんな室長の悪癖である、薬品を始めいろいろな研究品の制作にはほとほと困り果てていた。本人は良かれと思っているから尚タチが悪い。私たちのためだと言われれば感動して言葉も出ないので止めない私たちにも非はあると思う。
今回作り上げたのは男女逆転してしまうと言うカプセルだった。文字通り一つ飲めば性別があっという間に早変わりするといった代物である。作った理由を聞き出せばリナリーと姉妹になってみたかったのだと言う。シスコンも大概にしろ。
先程まで行われていたリーバー班長と室長の激闘を思い出してラビの肩に顔をうずめてため息をつく。ああ、やっぱり一番落ち着く場所だ。
「なまえ、」
「んん?」
「久しぶりに二人になったんさ。もちっと俺のこと考えてくれてもいいんだぜ?」
「……ラビは私の心が読めるというのか」
「そんだけ疲れた顔見りゃ分かるさ」
苦笑しながら私の頭を撫でるラビをちらりと見上げて、なかなかに引き締まったお腹に腕を回してぎゅうっと抱きつく。ラビも同じように私に回した腕の力を込めてきた。ふへへ、疲れなんて吹き飛んじまうぜ!
「じゃあもう今日はラビと一緒にいる」
「お、それは嬉しいさ。ご飯も一緒に食べよーな」
「一緒のお布団で寝るんだ。今日は絶対徹夜しない」
「じゃあ今日はなまえをずーっと甘やかしてやるさ!」
なんて素敵な日なんだ。ラビが一日甘やかしてくれるという。これはもう素直にお言葉に甘えておくしかない。私は思っている以上にラビのことが大好きなようだ。うひひ、後でリーバー班長に怒られても全然へこたれないぞ。…いや、ちょっとはへこたれるかな。
「なまえと一日一緒かぁ」
「なんだ嫌なのか。自分で言ったくせに。泣くぞ?号泣するぞ?わき目も振らず廊下で思いっきり泣くぞ?」
「嫌なわけないさ!そーじゃなくて、…へへ、嬉しいなぁって思っただけさ」
ぎゅうぎゅう抱きしめてくるラビの力は若干息苦しいけど、なかなかに心地良いものだ。見上げたラビがとても嬉しそうに笑っているから、私はニヤける口許を抑えきれずそのまま緩めさせた。
2015/09/28