■ 碧棺合歓のヒーローになった

多分神様辺りがうっかり間違えて道端に落としたと思うどえれぇかわい子ちゃんを助けて数日経った。かわい子ちゃんは外見のふわふわした印象とは真逆の積極的な子だったらしく、駅まで送り届けた後に殆ど無理矢理な手口で連絡先を交換してしまった。連絡先を交換した際のメリットをプレゼンされて気が付けば交換していた事なんてあるあるだよね!



「なまえさん!」

「ハロー、合歓ちゃん!……え?待って合歓ちゃんめっちゃイカついナンパ男引き連れてるね?」

「テメェかウチのが世話になったってのは」


お礼をしたいという約束の日。待ち合わせよりも三十分早く着いたので、のんびり合歓ちゃんを待っていたのだけれど。五分前にやって来た笑顔の合歓ちゃんに振りかけた手は、その後に続く彼女の配色に似たヤンキーみたいな男の登場に固まった。言動からして合歓ちゃんに並々ならぬ感情を抱いている男、そして男を見る合歓ちゃんの困った顔、知り合いらしいけど合歓ちゃんは優しいから上手いこと断れなかったんだろう。ならばやることなど一つだ。


「は?なにもう合歓ちゃんは俺のモンだからって言いたい訳?相手されてから言いなさいよ痛い男は見向きもされねぇわよ」

「口悪ぃぞコイツ。合歓、お前本当にこの女に助けられたのか?」

「私のヒーローはそんな所もカッコイイ」

「毒されてんな」

「はぁぁぁん???負け惜しみかしらぁぁぁ???」

「うぜぇうぜぇ」


マウントとって盛大に煽ってるのに笑っていられる余裕があるなんて。もしや手練か。男の傍から引き離すように合歓ちゃんを抱き寄せたら今度こそ男の目付きが変わる。ハンッ!今のは俺が一番近くにいるからってだけの余裕だった訳ね。あーあー、怖い怖い。そんなヤクザみたいに眉間に皺寄せて睨んだら、合歓ちゃんが余計に怖がってしまうじゃないか。心なしか合歓ちゃんも震えている気がする。


「合歓ちゃんが怖がってるでしょーが!」

「うるせぇ喋んな。こちとら妹が要らねぇ感情持つかどうかの瀬戸際なんだよ」

「ぁ、あぁ、なまえさ、なまえさんんん、あたっ、当たってますぅ……」

「ぇ、当たる程もないし合歓ちゃんなら別にいいよ、ホレ」

「ひゃわっ」

「……男じゃねぇだけまだ、いや良いのかコレ……」


私の胸なんてたかが知れてるし、なんなら合歓ちゃんの方が大きいと思う。これは将来とんでもねぇグンバツなスタイルの合歓ちゃんが見られるな。中学生でこんだけ完成されてんだし、この子が大人になったらどうなんの?国どころか世界傾くわこんなん。なんか知らんが男の方は一人で悩んでるしもう行っていいかな。私は合歓ちゃんを待ってただけで、名前も知らない男の愚痴なんてどうでもいいのだ。
どうやって二人でこの男から姿を消せるかなと考えてたら、合歓ちゃんが控えめに抱きついてきながら私を呼ぶ。見下ろしたら、これぞ上目遣いの黄金比だと言わんばかりのきゃわいいお顔があって思わず頬が緩む。


「なぁに、かわい子ちゃん!お姉さんがなんでも聞いたげるよ!」

「あの、そこの人はお兄ちゃ、えっと、私の兄なんです」

「……え、」

「この前助けて貰った話をしたら、会いたいって聞かなくて」


思わずきゃんわいいお顔から視線を外して、先程の男を見遣る。私の視線にも気付かずまだ悩んでた。確かに。よく、よぅく見たら合歓ちゃんに似てないことも無いことも無いようでやっぱり似てるかもしれない。配色は確かにそのままだけど、え、待って私ってば合歓ちゃんのお兄様にべらぼうにやべぇ失言しまくりだったんじゃない?は?処刑物では?
何かを察したように合歓ちゃんがそっと離れたことを切っ掛けに、私はふらりとお兄様の前に立つ。そこでようやく気付いたお兄様が訝しげな視線を向けてくるのも無視してその顔面に触れる。


「うわっ、どちゃくそイケメンじゃん。合歓ちゃんのお兄様ヤバすぎでは?肌ツヤ何これ陶器じゃん」

「オイ触んな……、ちょ、撫で回すんじゃねぇ!うぜぇ!!殺すぞ!」

「お兄ちゃん手加減!!」

「抓んぞ!!!」

「お兄様この度は大変に失礼な物言いをして申し訳ありません。合歓さんとは先日やんごとなき事情で出会いましてあれやこれやという間に連絡先を交換しましてその他諸々」

「合歓から聞いたっつーんだよ!いいから離せ!!」


青筋浮かべても合歓ちゃんの遺伝子と同じお兄様はやっぱりバチくそにイケメンだった。これは世界傾いたわ。多分地球五度ぐらい斜めってる。
なんやかんやと失礼なことをしてしまったのは自分自身許し難い愚行なので、合歓ちゃんのお礼兼お兄様のお詫びの両方をすることになった。


「碧棺左馬刻……、名前までイケメンって何??いやそれよりもどこの事務所に入ってんの?合歓ちゃんはアイドルする?推すよ、単推しになる。お姉さんいくらでも払っちゃう」

「どこにも属してねぇし、合歓がアイドルになったら国が傾くわ」

「傾かないよ……。それよりなまえさんモデルとかやってるんですか?さっきギュッてした時、凄く細かったし目鼻立ちも整ってるし」

「お兄様、お宅の妹さんめちゃくちゃお世辞上手くない?なんで私こんなに好かれてんだろ。ナンパから助けただけだよ?」

「……合歓を、よろしく頼む」

「お兄ちゃん気が早いよ!」


左馬刻お兄様に凄い覚悟を決めた顔して頭を下げられたんだけど。え、なに?なんで合歓ちゃんそんなに顔真っ赤にしてんの?真っ赤でも可愛いね。一生推す。ちなみになんの気が早いの、お姉さんに教えて碧棺美男美女兄妹。


2020/09/11
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