■ 打倒キバナと下心有りのダンデ

「何故私はキバナに勝てないのか第十二回作戦会議始めていくぞー!」

「司会はなまえ、アドバイスはチャンピオンことオレが務めるぜ!」

「それオレさま聞いてもいいやつ?」


ワイルドエリアにて。ダンデとグラスを鳴らしてジュースを飲み干す。お酒が入ると作戦会議どころの騒ぎじゃなくなるから自粛している。私とダンデの間に座る宝物庫の番人ことキバナは首を傾げながら苦笑した。


「隠れてやるのは私の真っ向勝負魂に反する」

「その割に呼ばれたの今日が初めてなんだけど?」

「えー、なまえ言われてる意味わっかんなぁい」

「コイツ……」

「なまえが作るカレーは絶品なんだぜ!キバナもどうだ?」

「それは貰うけどよ」


ぐるぐる真心込めて作ったカレーをダンデは遠慮無く皿によそっていく。ダンデのそのマイペースさ、嫌いじゃない。ぶつくさ文句を言いながらもカレーを食べた瞬間「うまっ」と呟いたのはちゃんと耳に届いているんだからなキバやん。
こんな会議が開かれる事になったのは題にもあるように、私がキバナに勝てないからである。ジムチャレは勿論、ただのポケモンバトルでさえキバナに勝てた試しがない。いろんな作戦を練って勝負に挑んでも悉く打ちのめされる結果に終わるのだ。は?ツラ。負ける度に膝を着く私を、キバナは憎たらしい笑みを浮かべて見下ろしてくるのだ。は?潰そ。悔し過ぎて自暴自棄になっていた私の手を取ったのは、現在私のカレーを食べて「今日も美味い」と絶賛してくる対私全肯定botダンデである。この人マジで凄いんだ。ダンデのアドバイスを受けて数日後には、一回も倒せなかったヌメルゴンを倒すことが出来たのである。まあ次に出てきたコータスに全員やられてしまったんだけれど。ダンデに直ぐに報告したよね。


「つーかなまえは何でダンデとキャンプしてんの?仕事の邪魔するな?」

「初めは本当に一人でキャンプしてたんだよ?でもどこでキャンプしててもダンデがやって来るから……。ついでにキバやんの倒し方を伝授してもらってただけで」

「キバやんとか初めて言われたわ」

「オレとキャンプするの嫌だったか……?」

「は?大好きだけど?」

「オレも大好きだぜ」

「オレさま挟んでイチャつくなよぶっ飛ばすぞ?」

「えなんでいきなりキレてんの……」


小さく呟かれた言葉に咄嗟に反応すれば、にっこり笑顔で「大好き」を貰ってしまった。ヤダこれファンに見られたら私殺されるのでは?と思ったらその前にキバナに殺されそうになってビビる。なんだ?ダンデの大好きはオレさまの物だってか?残念ながらダンデは私の(作るカレーの)虜なんだよぉ!ザマーミロー!


「曲解してんじゃねーよ。オレさまのことだけ考えてろ」

「考えてるからダンデにアドバイスを貰ってるんだけど」

「ああ、全くもって羨ましい限りだぜ。正直今日もなまえと二人でキャンプすると思っていたから、キバナの話は始めの内で切り上げようと思っていたんだが。まさか本人を呼ぶとはな!」

「……ゑ?」

「おうとうとう本性現しやがったかダンデこの野郎。なまえはオレさまの獲物だっつーの。横槍入れてくんな」

「横槍も何も、なまえとキバナはただのバトル相手だろう?オレはなまえと恋人になりたいんだ。ただのバトル相手のキバナには関係ないだろう?」

「煽ってくんなぁチャンプはよぉ?誰がバトル相手としか見てないって言ったよ。オレの事考えて作戦練ってバトル挑んでくるコイツを好きにならないわけねぇだろうが。なまえがオレに勝ったらそれこそ全力で口説き落とすわ」


ええいこの男たち私を置いてバチバチやってんぞぉ!?まあ今話し掛けられても情報過多で固まった頭は反応しないけどな!整理させて。あとキバナは一人称直して。本気感があってどんな顔していいか分からなくなるから。
何?私はただただ打倒キバナの作戦会議をしたかっただけなのに、何でこんな事になってるの?おかしくない?作戦会議してカレー食べてポケモンバトルしてポケモンと戯れたかっただけなのに。何で人間通しのバトルが始まろうとしてんの。ジュラルドンとリザードンがバチバチし始めてる。待って、今あなた達が好戦的になられたら私が困る。私じゃ二人を止められないし、なんなら火に油を注ぎそうだから落ち着いて欲しい。
そんな私の悲痛な思いはポケモンには伝わらず、勿論キバナとダンデにも伝わらず。


「オマエの無敗記録、終わらせる!」

「どんなバトルでも負けないぜ!」

「「ダイマックスだ!!」」


マジのバトルが勃発した。一瞬遠い目をしてしまったけれど、白熱してる内にそっとその場から去ろうと試みる。いやもう二人のバトルをどんな気持ちで見ればいいのか私には分からない。キャンプ道具はまた取りに来ればいいとジリジリ後退していけば、背中にぶつかる何か。振り返ればそこにはフライゴンとドラパルトがいて。え?私が去ろうとしてたの予知してたの?思わず二人を見れば二人とも真顔で私を見ていて悲鳴を上げそうになった。


「逃げたらカメラ前でも関わらずに口説くからな」

「逃げたら雑誌に二人でキャンプしてる写真が載ると思って欲しい」

「酷い脅しを見た」


2020/03/17