■ 派手な本音に宇髄はご満悦

「たぶん癖なんですけど、考え事してる時によく口許に手を置いてるんです。下唇を親指と人差し指で挟んで考え事に耽ってるの凄い様になっててカッコイイんですよねぇ。暇な時とか抱き枕用の人形で一人遊んでるの見た時本当に可愛いって思っちゃって、黙って動画撮ったのがあるんですけどもう疲れた時の癒しですよコレは。普段あれだけカッコイイのにギャップが凄すぎて毛根が死滅するかと。へへ、かっこよくてかわいいって凄くないです?好き。飲み会の時はちゃんと話してくれるし、酔っ払って帰ってくるとかも無いんですよねぇ。まあお酒が強いからって言うのもあるだろうけど。……時々気にさせ過ぎて申し訳なっちゃう時もあるんです。ちゃんと息抜きできてるのか心配だし、ちょっと距離置いた方が向こうも楽なんじゃないかって。寂しいけど、無理して欲しいわけじゃないんですよねぇ。好きだけど、そりゃあ大好きだけど、天元さんの一番が良いけど、人間束縛するのもされるのも苦手な人っている訳だし。んー、へへ、大好きだからですよぉ、そりゃあね。好きな人の幸せを考えるのがこんなに楽しいなんて、私初めて知りました。それとこの前、」


私は膝から崩れ落ちた。目の前には酔っ払った私の醜態動画を垂れ流してこちらを見下ろす天元さんが。動画の中の私はグラス片手に未だペラペラ話し続けており、もうやめてくれと耳を塞いで口から悲鳴を上げる。
昨日の記憶はさっぱりだ。生物教師であるカナエちゃんと一緒に飲もうと二人で居酒屋に入ったのは覚えている。校内では話せない色んな話で盛り上がり、お店のご飯も美味しくてついついお酒が進んだのだ。気が付いたらベッドの上だし、二日酔いで痛む頭に水を飲もうとフラリとリビングに出たら聞こえてきた声。見慣れた後ろ姿に声を掛けようとして、耳に入ってきた私のものであろう酔っ払ったなっさけない声に途端痛みは吹き飛んだ。という感じである。


「派手に貴重な派手な本音が聞けて派手に嬉しいぜ?」

「消してぇ……」

「可愛くオネダリできたら考える」

「消してくれたら一日ひっつき虫する」

「……、派手に魅力的だがヤダ」


一瞬固まったからいけると思ったのに!!!ぐぬぬと唸り声をあげる私は、いかにして天元さんの手から携帯を抜き取るか考えていた。カナエちゃんには後で抗議の電話をするとして、先ずは私の醜態動画を消すことが第一目標である。ニヤニヤと私を見下ろす天元さんは憎たらしくもカッコイイ。惚れた弱みって凄い。こんな状況でも好きな人は世界一の男だって自慢できてしまうんだから。先生!私の視力おかしいです!天元さんが光り輝いて見えるんですが!派手神?成程理解!!!


「にしても距離を置く、ねぇ?なまえ、俺から離れられんの?」

「蒸し返さないでくれるぅ!?寂しいけどって言ってるでしょ!何コレ!新しい羞恥プレイ!?」

「なまえが束縛してくれるの結構好きなんだけど。お前の我儘って飲み会あったら隠さず言ってっていう地味な奴くらいじゃねぇか」

「だぁから!重い女って思われたくないの!天元さん自分がどれだけイケメンか理解してる!?天元さん狙いの私より顔がいい子なんて山のようにいるんだよ!?せめて性格ぐらいは良くしようとしてるの!」

「あー、お前距離置いたらマジで警察沙汰になってでも縛り付けてやるからな」


やけくそになって叫ぶ私を抱き上げて、落ち着かせるようにぽんぽん背中を叩く天元さん。まさかあんな動画を撮られてたなんて誰も思わないし、しかもそれを相手に送り付けるってかなり性格が悪いのでは?カナエちゃん私あなたに何かしました?こういうのよくないと思いますよ?


「なまえも俺の動画あるんだろ。おあいこじゃね?それでも嫌なら互いに消そうぜ」

「わたしからいやしをとるなんててんげんさんはおになの?」

「動画に頼らず直接俺に来いって事なんだけどなぁ」

「それが出来たら動画なんて撮らない」

「なんで」

「天元さんと顔合わせると口から勝手に好きが出る」

「は?なんだそれ初耳だわ。ちょ、こっち見ろ」


顔を覗く為にと体を離そうとする天元さんに抵抗して思い切りその首にしがみつく。絶対に顔を合わせてはならぬ。思わずカミングアウトしてしまった内容は、どうやら天元さんにとって大事だったらしい。嫌だよ恥ずかしい。好きをずっと言い続けるとか気持ち悪いでしょ、いくら恋人だとしても。気持ち悪いとか天元さんに思って欲しくないので私は必死に抵抗するのだ。


「ひん、好き……好きです天元さん、大好き……」

「おう、俺も大好き。愛してる」

「あびゃぁ、カッコイイ……好きぃぃ」


まあ非力な私が天元さんに敵うはずがなかったんですけどね!嬉しそうに笑う天元さんってば本当にカッコよ過ぎて私の目玉溶けるのでは?大丈夫?視力落ちてない?


2020/02/17