■ 坂田のSOSに気付く
「今朝から様子がおかしいんですよ。7時前くらいから神楽ちゃんと定春も外に出て行かされて…。寝てたところを定春の背中の上に移動させられたらしくて、そのまま外にいたんです。僕が来た時には神楽ちゃんも起きてて、そりゃもう凄い怒ってましたよ。出てきたら絶対殴ってやるー!って。あ、今はお登勢さんのところで朝ごはん食べてます。僕も姉上と食べてきたから大丈夫ですよ。…あ、いやでもそのおにぎりはくれるんでしたら頂きます。姉上の暗黒物質…じゃねーや、卵焼きしか食べてなかったですから。
銀さんですか?まだ万事屋にいると思いますけど…。何しろ神楽ちゃんも寝惚けたままだったから銀さんの姿をちゃんと見てないんですよ。ほんと、どうしたんですかね?あの馬鹿は。まあ、どーせ昨日も飲み歩いて二日酔いになるから、朝から騒がれるのも嫌だーって理由で外に出したのかも知れませんけど…。流石に銀さんでもそんな事しないかな、ハハハッ。え、なまえさん、様子見てきてくれるんですか?うーん、僕もさっき行ってみたんですけど「何でもねーから出てけ」って部屋の中から言われたんですよね。まあ、なまえさんだし、銀さんも追い返す事はしないと思いますけど…。何か変な事言われたら直ぐに言ってくださいね?僕も神楽ちゃんも、殴り込みに行きますから」
新八くんの話を聞いて、やって来ました万事屋玄関前。朝から未成年の女の子を外に出すってどういう事なの、とツッコミたくなったが神楽ちゃんも暫くそこで寝てたのねと苦笑してしまった。
ガラッと扉を開いていつもの様に、変わりなく短い廊下を歩いて居間へと踏み込む。襖がキッチリと閉められており、まるで中に入るなとでも言いそうなそれの前に立つ。
「銀さーん」
恐らく新八くんと同じように声をかけてみた。ゴソゴソと物音が聞こえた。寝てはいないようである。
「……なまえ?」
「そうですよー。銀さんの大好きななまえですよー」
「…ん、入れ」
あれ、おかしい。いつもなら今の私の冗談にツッコミをいれてくれるはずなのに。体調でも悪いのだろうか、いや、まさかな。
小首をかしげながら入室を許可されたのでそっと襖を開く。先ず目に飛び込んできたのは布団にくるまった銀さんの姿だった。やだ可愛い。おもわずキュンときた。
「銀さん、何してるの?」
「……」
「え、かまくら遊びかなにか?」
「……」
私の言葉に答えず銀さんは布団から出した掌で手招きする。仕方なくそれに従い、銀さんの前で正座して影がかかる銀髪に手を伸ばす。
「よしよし」
子供をあやすようにそのふわふわの頭を撫でてやれば、拗ねたような照れたような複雑そうな顔をして私をジッと見てくる。動じずに暫くそうしていれば、もぞもぞと距離を詰めてきて一緒に布団にくるまれた。おふっ、暑い。
「ふむ、この甘え下手め」
「……うるせー」
聞こえてきた不服そうな声に笑みをこぼして、私よりも大きな体を抱きしめてやる。暑いけど平気だ。だって私は銀さんが好きなのだから。
片手は体を抱きしめながら、もう片方はもふもふの頭を撫でながら、私はこの甘え下手な愛おしい人をやんわりと受け止める。神楽ちゃんも新八くんも心配してると言ってやれば、ありえねェといつもの間延びした声が聞こえてくる。ついでに神楽ちゃんが外に追い出された事に大層腹を立てている事も伝えると、無言で抱きついてくる腕の力が強くなった。
「銀さん、ちゃんと謝ったら神楽ちゃんも許してくれるよ」
「……本音は?」
「きっと一発は殴られるだろうなぁ」
「あ゙ー…、神楽の機嫌とるの手伝えよ」
「あれ、私関係なくない?」
「危機に瀕してんだぞ、助けろよハニー」
「まったくウチのダーリンは仕方ないなぁ」
顔を上げた銀さんが調子よくそんな事を言って頬にキスしてきた。私は仕方ないと笑いながら了承する。
そうして万事屋に入ってきた二人と一匹。神楽ちゃんが銀さんの姿を見て殴りかかる前に、私が神楽ちゃんの機嫌をあの手この手でとったのは言うまでもない。
2015/09/01