■ アマテラスに懐かれた

「……あふっ!?」


背後から思い切り腰に頭突きされた。
どしんっと素晴らしく鈍い音を立てた腰をさすりながら振り返れば、そこには賢く前足を揃えて座りこちらを見上げてくる真っ白な毛並みをした狼がいた。正確には身体に紅い隈取りをした神器を背負った神様なのだけれど。何を隠そうこの方こそアマテラス大神である。


「アマテラスさん、そろそろ私の腰が可笑しくなるよ」

「?」

「首傾げてもダメだからね!」

「すまねぇなぁ、なまえ。アマ公も悪気はねぇんだよ?」


ぴょんぴょんと神様の頭の上で跳ねる緑色に光る妖精さんはイッスンさんという。そっと両手を広げて伸ばせば、当たり前のごとく掌の上に跳んできたので私は小さく首を振った。


「でもイッスンさん。アマテラスさんちょっと挨拶が過激すぎない?何か目を離したら背後に回って頭突きしてくるんだけど?」

「いやそれはなまえがアマ公から目を離すからで…、いや、これはアマ公の問題だな」


イッスンさんの言い分はよく分からなかったが、つまりは私が悪いと解釈しても良いのだろうか。成程、解せぬ。
座り込む私の膝の上に堂々とその頭をグデッと落ち着かせて気が抜けたように大きな欠伸を一つする。アマテラスさん、あなた一応女の子(?)なんだからもっとこう、気付かれない様にした方がいいのでは。言葉が通じているのかわからないが、言ってみると小さくクゥンと鳴くだけである。


「なんで私はアマテラスさんに懐かれているのか。不思議だ」

「信仰心は強いよな、なまえ。アマ公の姿もちゃんと見えてるっぽいし」

「うん。と言っても太陽が大好きなだけなんだけど」

「それがアマ公には嬉しいんじゃねぇのか?」

「そうなのかなぁ…?」


太陽は大好きだ。朝一番に目にすると気分は高まるし、元気も出る。庭で育てている作物の育ちも格段に良くなるし、川で遊ぶ時に見る木漏れ日なんて最高だ。キラキラしてて本当に綺麗だと思う。でもそれぐらいの事なんて他のみんなもそうじゃないのか。私は確かに太陽が好きだけど、もっと他にも太陽を好きな人はいると思う。
それでもアマテラスさんは私の膝を占領して、挙句には構えというように腕を甘噛みしてくるのだから理解出来ない。懐く要素など皆無であると思うのだが。


「アマテラスさんはいっつも毛並みが整ってるよねぇ」

「……」

「やっぱり神様なんだなぁ、綺麗な白色だ」

「……」

「うんうん、やっぱり私はアマテラスさん大好きだよ」


イッスンさんを肩の上に乗せて、よしよしと両手でアマテラスさんの毛並みを梳いてやる。気持ちよさそうにクゥクゥ鳴く声に、こちらも自然と笑みが漏れた。
結局はそう、私も絆されているというわけである。


2015/09/01